ぼくらは薔薇を愛でる

異変と小さな決意

 帰国の朝は雲が広がっていた。雲には隙間があって青空が少し見える。雨が降るような雲には見えないが、どうかクラレット達が国境を越えるまでは良い天気であれと、道中を無事にと、早朝に目を覚ましたレグは願った。

 昨夜、屋敷へ帰ってきてから、クラレットにとうとうリングを渡したことで気持ちが高揚してなかなか寝付けなかった。
 そうだ、と思い出し、代わりに受け取ったクマのぬいぐるみを袋から取り出して枕元に置けばほんのりと花の香りがする。クラレットが作ったのだと思うと途端にぬいぐるみでも愛しくなる。
 そうして枕に頭を乗せた時だった。胸の痣が疼いた。やけに熱い。そういえば夕方から熱かったかもしれない。

 思い返せば、少し前から痣の辺りがムズムズしたりチリチリと熱く感じたりはあった。気にかけていないと気付かないほどのこれが、疼くという事なのだろうか。
 鏡で見ても濃さや大きさは変わらず、だがチリチリとした熱い感じはより一層強い。
 
 きっかけは何かあっただろうかと考えた時、初めてクラレットと手を触れた瞬間に感じた衝撃、あれに行き着いた。
 もしあの衝撃とこの痣の疼きが関係しているのなら、クラレットは痣を持っているという事になる。だがもうそれを確認する機会はない。彼女は明日朝に帰国するのだから。

 だけどもしそうならどうしよう、誰に相談したらいいのだろうか。執事をはじめ屋敷の者や従者に話したとしたら、必ず父上の耳に入る。同時にリングを渡した事もそのうち露見するだろう。
 痣が疼いた相手で、かつ自分から望んでリングを渡した者が居るとわかれば、おそらくクラレットを王命で召し上げるだろう。そこに彼女の意思は関係無い。それだけはしたくなかった。クラレットには自分で選んで欲しい。縛りたくない。これは未だ誰にも言ってはならない。

 彼女にはリングを渡してあり、ウィスタリア国のバーガンディ侯爵、ここまでわかっているのだから、大人になって迎えに行く時に話せば良いだろう。だから、今はまだ誰にもいうべきではない。そう固く心に決めた。迎えに行くその時まで――。

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