ぼくらは薔薇を愛でる
第四章

旅立ち

 市井に降りて社会勉強をしていたレグホーンは15歳になった。当初の予定通り社会勉強はこの年で終えた。スプリンググリーンで体験できる、衣食住に関わる事はほぼ体験し、そのほとんどの職場でたくさん叱られた。

 介護の施設では爪切りをすると朝決めていたのに忘れてしまい「爪切りをする時間がなかった」と浅はかな返答をしたものだから叱られた。計画性の無さを痛感したし、馬の世話なら城でもやっていたから簡単だとタカを括っていたが、馬が思うように大人しくしてくれず危うく大怪我を負う所だった。驕りが招いた事で、こういったミスは何度もあった。

 叱られれば凹む。やめてしまえと言われたこともある。だがその度に、クラレットが言ってくれた言葉を思い出した。大きな花を咲かせるためだ。クラレットと再会した時に恥ずかしくない自分でいたい。それが支えだった。

 そうしていくつもの職場を体験していくうち、街でレグの顔を知らないものは居なくなった。どこかの貴族のお坊っちゃまが気まぐれでやっている、真剣にやらない、すぐ飽きて帰るだろう、甘ったれだ、世間知らずの坊やに勤まるものか。そんな風に始めは侮られていた。レグ本人もそう思われている事は承知で飛び込んだ。

 だが3年も経つと、街で姿を見かけると話しかけられる事が増え、貴族の坊っちゃまにしては気さくだし勤勉でよく働く子、と皆がレグの後見人になった気で見守ってくれるようになった。

 来月からは学園に通うから来られないのだと挨拶に行った時はなかなか帰してもらえず、結局、数日かけて街を巡った。
 こういった出会いは宝だとレグは思う。城にいたらわからなかった。月に一度もらうお給料でその先ひと月を暮らすこと、不意の出費がありお金の足りなくなる月もあること。長雨が続けば野菜が高騰すること。城に飾られている花々がどうやって各家庭に届くのか。一つの荷物を運ぶのにどれだけの人が関わっているのか。レグには知らない事だらけだった。
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