ぼくらは薔薇を愛でる
 ニコニコとしているレグに、ゼニスが言った。
「それで? 他にも話があるんだろう」
「さすが次期宰相。知っていたか」
 目の前の3人を見回して口を開いた。彼らは変わった空気を察してソファにきちんと腰をかけ、レグの言葉を待つ。

「実は、みんなの力を借りたい」
 3人は顔を見合わせた。

「卒業したらすぐウィスタリアに行きたい。それに同行してもらいたい」
 3人は顔を見合わせた。

「どういうことだ」
 クラウドが聞いた。

「――ウィスタリアに、好きな子がいるんだ。俺のリングも渡してある」
「ひょっとして、そのクマの子だろうか」
 マルーンが指差した先にあるのは、レグの背後にある机の上の小さなクマのぬいぐるみだった。
「あぁ……」
「その子はウィスタリアのどこに? 平民なの?」
「それがわからない。だから彼女を見つけたい。侯爵家令嬢なんだ。バーガンディ侯爵。だから、王都で探ればすぐに見つかると思っている」
 3人を見回した。

「侯爵家令嬢なら……父に話せばすぐに見つけられると思うけど」
 いいや、と頭を横に振る。それを受けてゼニスは、うん、と頷いた。

「国の力を以てすれば、きっと明日にでも彼女の居所はわかる。王命で隣国の令嬢を城へ召し上げることも簡単だと思う。でもそれじゃ嫌なんだ。バカらしいと思われてもいい、俺は王子ではなくレグホーン個人として彼女と出会いたい。自分の足で彼女に近づいて、彼女にも俺を望んでもらいたい。――俺のわがままなのは承知している。それにお前達を巻き込むんだ……」
「だからお前、言いよる令嬢達に見向きもしなかったわけか!」
「うん、クラレット以外興味無い」
 ピシッと言い切る。
「あ、クラレットっていうんだ」
 クラウドがニヤニヤと揶揄った。だが馬鹿にするでもなく、皆真面目な顔つきになる。
「もうリングを渡してあるなら行くしか無いよね、レグホーン様」
「そうだな。そのために12歳の頃から動いてたんだ、行かなきゃ一生後悔する」
「喜んでお供仕ります、レグホーン第一王子殿下」
 座っていたソファから立ち上がり、レグに向かって一礼する3人。
「そう、か、ありがとう! 皆んなが一緒なら心強い」
「お妃様を迎えに行ったのは俺らだぜって、一族に自慢してやれる!」
 あっはっはと笑いが起きる。
「で、ここまで身分を隠してきたんだ、旅でもそのつもりなんだろう?」
「うん。馬で。ローシェンナの貴族令息達の卒業旅行という名目にして、護衛の騎士も俺の従者も連れて行かない」
「そうか、それなら、悪漢ならクラウドに任せる。安全はクラウドの腕に掛かっている。もちろん俺たちも剣は振るえるから4人で叩けばいいだろ。交渉ごとや金の管理は俺がするよ。マルーンはその家業の通り、星読をしてもらいたい。医術も心得があったよな? 旅の間の健康管理は任せる。それでいいか? レグ」
 うん、と大きく頷いた。
 こんなに頼もしい仲間が居てくれた事に、レグは嬉しかった。騙していた形での仲間だから、ひょっとしたら秘密を明かせば離れて行かれても仕方ないと思っていた。でも大丈夫だと思ったからこそ打ち明けたのだ。
「みんな、ありがとう。頼もしいよ。今日にでも家の方には通達が行くと思うから、よろしく頼む」
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