ぼくらは薔薇を愛でる
 3人に旅の供になって欲しいと頼んだ翌日、彼らは父親と共に城に来ていた。応接間に集まった皆に、王が言った。

「此度は、愚息のわがままを受け入れてくれて感謝する」
 父親として息子の友人親子に頭を下げた。

「このことは、レグホーンが10歳の頃に約束をしたのだ……皆はこの先、レグホーンを生涯に渡り支えてくれると信じて、明かさねばならない事がある。
 ここで初めて、レグホーンが抱えている痣のこと、神託のことを聞かされた彼らは驚いていたが、それでも変わらずレグホーンを支えると約束してくれた。

「レグホーン、クラウド、ゼニス、マルーン」
「はっ」
「いいか、必ず、生きて帰城せよ。一人でも欠けてはならん。どれだけ時間がかかろうとも、その顔をまた私たち父親に見せておくれ。これは王命などでは無い、父親からの願いだ」
 最敬礼で王と父親達に応える4人。学園では悪ガキ扱いだった。遅刻もして授業をサボりもしてきたが、こうして信頼関係が築けていたなら良いだろう。

 用意させておいた軽食を運ばせて、旅の件を詰める。
「どこへ行くのか決めているのか」
「ウィスタリアへ行きます」
 即答したレグホーンを見て、父王は片眉を上げた。

「なぜだ」
 とても低い、怒気とは違う迫力のある声に、皆が緊張する。

「ウィスタリアに、好いた令嬢がいるのです。12歳の時にスプリンググリーンで出会い、彼女にはリングを渡してあります」
 眉間にシワを寄せた父王は、堪えきれなくなって噴き出した。

「ようやく言ってくれたか、息子よ」
 えっ、と驚けば、宰相もニヤニヤしており、どうやら早い段階でリングを渡した事は伝わっていたらしい。

「いっいつからご存じだったのですか……リングを渡した事を、咎めたりは」
「咎めたりするものか。息子が好きになった令嬢に渡すのだ、親は関係ない。確かにお前はこの国の王位継承者で神託の事もあるから、痣が優先されるべき存在でもある。だがそれよりも、お前が生涯共にと思えた者に出会えたならそれでいいと私も王妃も思っている。咎めるものか」
 父の話に目頭が熱くなる。10歳のあの夜会のあとで母に言われた事を思い出し、あの頃から両親の気持ちは変わっていないのだと再認識できた。
 ただ、クラレットに痣があるかもしれない事は黙っておいた。あれ以降、他の女性に触れる機会はあったが、やはり何の変化も起きなかった。ビリビリとした衝撃と痣の疼きが生じたのはクラレットのみだった。これは今言うべきではないだろう。そう思い、心に閉じ込めた。
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