ぼくらは薔薇を愛でる
 パープルに支えられて立ち上がり、針子を探すクラレット。

「せっかく仕立てていただいたのに……ご覧の通り……本当に申し訳なく思います」
「とんでもございません、お嬢様は一ミリもお悪くなんて、ないっ……じゃないですかっ、あんなっ! おっお助けできなくて、申し訳なくて……」
 針子も、着替え中のところを押し入られたのは初めてで動揺していた。押し倒されたクラレットを助けることもできず震える足は動けなかった。

「後日、父と相談して伺いますとマダムに伝えてください、それからこの事はどうか内密に、と」
 針子は持ってきた道具を片付け終え帰っていった。

 ――あのドレスは、きっと着ない……お父様が戻ってきたらその事も相談しなきゃ。

「何かお飲みになりますか? パープル特製のジュースをお持ち致しましょう」
 侍女を、扉の前に二人残して、パープルは厨房へ走った。

 パープルを待つ間、先ほどのことを思い出した。あの時、咄嗟に頭の中に浮かんだ名前――レグ。それに聞き覚えがあるような気がするのだ。どこかで会ったかただろうか、自分は何か忘れているのか。ほんの少しの不安を覚えて、引きちぎられなくて済んだ小さなリングを服の上から握りしめた。

< 42 / 93 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop