ぼくらは薔薇を愛でる
　痣があるのはクラレットのせいではない。誰のせいでもないのだ。これを消すべく検査もしたしあちこちの皮膚科を受診したりもしたが、消し去ることはできなかった。外科的手法なら消せると言われたが、それは拒否した。ある意味、痣を受け入れたようなものだ。

　だからドレスのデザインの工夫をしておしゃれを楽しめるようにと、男親ながらに情報を得て人気の針子を手配してくれた。仕事で留守がちでも出先から手紙がいつも届いた。土産を欠かさず持ち帰り、時間がある時はクラレットにとことん付き合ってくれた。木登りができるまで、一冊の本を読み終えるまで、クッキーが焼きあがるまで、刺繍が仕上がるまで、眠るまで、そして、涙が止まるまで――。

　父親はいつも寄り添ってくれた。だからこの婚約で安心してもらいたかった。痣を承知で婚約成立したのだと思っていたから、父親を安心させるために相手を支えよう、受け入れよう、そう覚悟してきたが、こんな形で幕引きとなるとは想像だにしなかった。

　悔しい。何か自分のやり方を間違えていたのだろうか。顔合わせに来ないあの人を迎えに行けばよかった？　だけど、もう考えたくない。今はただ泣きたかった。

　どのくらい経っただろうか、泣き声が聞こえなくなったところで、執事がお茶を用意して執務室へ入ってきた。二つのカップに入っているのは、やや薄めのグリーンティー。空腹の体に優しいお茶だ。

「実は、昨日のうちにカーマインへ連絡をしておいた。お前から行きたいと言わなくても行かせるつもりだったから。あちらへはいつ行っても構わない、お前の支度が出来次第、行くがいい。気の済むまであちらで過ごせば良い。王都にいれば聞きたくない話も耳に入ってくるだろう。夜会なども行かんでよい、あんなもの」

　それから領地へ行くための荷造りを済ませて、昼前には王都を出ることができた。学園での、唯一の友人セシル・ブライトマンには手紙を認め、執事に託した。

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