ぼくらは薔薇を愛でる
 そんなことをずっと考えて過ごしてきたが、今朝は不思議と気分が違った。目を覚ましてすぐベッドから降りてカーテンを開けた。何故だか今朝はそうしたくなった。

 ――まぶし……きれいな青空

 窓越しの空が朝陽で輝いて見えた。窓を全開にすれば、朝の澄んだひやりとした空気がスウッと室内に入ってくる。深呼吸をすれば身体の中もきれいになる気がした。

 ぐーっと両腕を上にあげて深呼吸をしながら背伸びをしていたら、下から使用人達の声が聞こえてきた。
 朝の挨拶を交わしているらしい声は元気で、時折笑い声も混じっている。忙しなく門扉で配達の新聞や牛乳などを受け取ったと思ったらかけ戻り、また庭へ出て掃き掃除をする者、厨房からは焼き立てパンのとても香ばしい香りが漂っていて、クラレットのお腹を刺激した。自分一人が塞ぎ込んでいても、毎日はこうして進んでいるのだ。

 ――辛い事だけじゃないんだわ、幸せな事もあるはずなのよ……

 クラレットは朝の澄んだ空気で室内をいっぱいにしたくて窓を開けたままにし、今しがたまで使っていたベッドをきれいに整えた。顔を洗い、クローゼットからワンピースを取り出して着替えた。ドレッサーの前で髪を梳いていたら訪いを告げる音が響いた。

「――お嬢様」
 パープルだった。もし眠っていたら起こさないように、との気遣いからか、扉をそうっとほんの少し開いて中の様子を伺っている。ドレッサーの前に座るクラレットと目があった瞬間、思い切り扉を開けて入ってきた。

「おおおお嬢様!」
「おはよう、パープル」
 えっ、と戸惑いつつ、室内の空気が冷えていることにも気がついて、窓が全開な事を知ったパープルは、窓を先に閉めようか、お嬢様の髪を先に整えようか、アタフタしていた。
「さっき開けたのよ、気持ちがいいのね」
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