ぼくらは薔薇を愛でる

時間薬

　今朝のお嬢様は外にでる気が湧いてきたかしら、と毎朝気にしながら、パープルは部屋を訪れた。まだ眠っているようならそのままにするし、もし起きていたなら朝食を用意しなければならない。そっと扉を開けて室内を見回せば、昨日とは打って変わって明るい室内に驚いた。

　窓は全開で室内の空気が澄んでいる。そして何よりクラレットが起きて着替えを済ませていたからパープルの驚きは大きかった。既にドレッサーの前に座って自ら髪を梳いていた。

　昨日まで部屋で腐っていたお嬢様が、今朝は起きて自ら髪の毛を梳いている。パープルは驚き、喜んだ。だからその事には触れずに、努めていつも通りに振る舞った。
「ねえ、髪の毛切ろうかしら」
　クラレットの後ろに立ち、ブラシを上から下へ動かすパープルは思わず手を止めた。
「なっ、えっ、それはなりませんよ？」
「どうして。短い方がお手入れが楽じゃない？　それに毛先の傷みがひどい気がして。ツヤもないし」
　毛先を指でつまんでじっと見るクラレットを鏡越しに見て、パープルは言った。
「楽かどうかでいえば楽ですが……お風呂は入っておられましたが、お髪のお手入れをしておりませんでしたからツヤがないのは当然です。それにその、今はまだそういう気分じゃないでしょうが、いずれ殿方とお出かけなさる日が来た時――」
「ないわ、ない。だって好きになってもどうせ。それに好きでもない人のために着飾るのは面倒臭い」
「面倒臭いって、お嬢様ぁ……」
「とりあえず毛先だけでも切って長さを揃えてもらえるかな、気になるの」
「かしこまりました！」