ぼくらは薔薇を愛でる
「みんな、私に構わないでいてくれてありがとう。情けない姿を見せてごめんなさい。今朝窓を開けたら、空がとってもきれいで感動しちゃった。あんなに輝いた青空を見たの久しぶり! みんなの元気な声も聞こえたのよ、朝から元気な声をありがとう。パンを焼く良い香りもしたわ、食欲がそそられちゃった。それから廊下にきれいな花が活けられていた、ありがとう。みんなに愛されてる、支えてもらってるって気づいたら落ち込んでいるのがもったいなくなっちゃった。泣いて過ごしても笑って過ごしても同じだけ時間が過ぎるなら、後者を選びたい。より幸せであろうといたい。昔のようにみんなと同じテーブルで食べて、笑いながら食事がしたい。そう思ったの。――知っている通り、婚約は解消となりました。いまは自由の身なの。カーマインは祭が近いし無為に過ごすわけにもいかないわ。だから、また今日からよろしくお願いします」
 話している間、鼻をすする音が聞こえた。手に持ったカップを俯いて見つめる者もいた。じっとクラレットを見据える者もいた。

 隣に座り、その話をじっと聞いていたマリアはクラレットを抱きしめた。カーマインの邸に於いて、クラレットが幼い頃からその養育に関わってきた。

「お嬢様、侯爵令嬢として使用人に頭を下げてはなりませんとお教えしたはずです……」
「マリア、だって……」
 背中をポンポンとしながらマリアが続けた。

「祭の準備が間にあう頃までにお嬢様がお出でにならなければ、引き摺り出す予定でした、祭が迫ればお嬢様のクマのポプリが要りますから」
 マリアの悪戯っぽい笑顔に、クラレットはじめ他の皆んなからも、ふふっと笑いがこぼれだす。

「さあ、しっかり食べてチカラをつけてくださいまし、何体も作っていただくんですからね」
 久しぶりのみんなとの時間はやっぱり楽しくて、クラレットの心を更に元気づけた。
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