ぼくらは薔薇を愛でる

祭の準備

 バーガンディ侯爵領地カーマインはなだらかな丘が広がる土地を持ち、ラベンダーの栽培が盛んに行われていて特産物だ。多数のハーブも扱っており、乾燥させて塩や砂糖、スパイスと混ぜたものや、生花として、またドライラベンダーそのものを、国の内外へと卸している。

 そのラベンダーの花が咲く初夏になると、収穫を祝い感謝する祭が開かれる。ラベンダーの花束やポプリのほか、ここでしか作られていない、砂糖漬け、焼き菓子、入浴剤などさまざまなものの屋台が多数並ぶ。そのどれもが農家や町民の手作りだ。その為に祭よりも早く開花する品種のラベンダーを栽培する農家もある。

 幼い頃、クラレットは手のひらに乗るサイズの小さなクマのポプリを作り、ひとつだけバザーの屋台の飾りとして置いてもらったことがある。売り物では無いと言っても、客から売って欲しいと次から次へと声がかかったのをきっかけに、それ以降は、祭の一助になるならと、ぬいぐるみを一年で作れただけをバザーに出していた。売り上げは全て孤児院へ寄付しており、それがクラレットのできる唯一の事だった。
 
 引きこもっていたクラレットは、このクマのポプリ作りを再開させていた。祭まであと十日余り。あと何体作れるか材料を見ていたら、肝心の生地と手足を縫い付けるためのボタンが足りないことに気がついた。
「ならば、息抜きに街へ行ってみてはいかがでしょうか、祭が近いので賑わいが増しているでしょうが」
 パープルの提案で、二人は街へ出ることにした。地味なワンピースを着て、髪には飾りなしの、ハーフアップにしただけの髪型。馬車は侯爵家家紋の無いものを使い、護衛兼御者のモーブを連れて出かけた。
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