ぼくらは薔薇を愛でる
再会(レグホーン視点)
レグホーンたちが国を出て半年が過ぎた。
冬の終わり頃に城を出て、どうせならあちこち行ってみないかと、今まで行かなかった国の端にまで足を伸ばしたり、逗留先で数日野良作業を手伝ったりしながら歩を進め、ようやくウィスタリアに来た。森林地帯が多く立ち寄れる街が少ない為、海岸線沿いに進んでカーマインに到着した。
「おい、あれ」
小さな港があるのを見つけて行ってみれば、男二人が女性を壁に追い詰めているのが見えて、四人は咄嗟に駆け出した。辺りに人の姿が見当たらない。建物の向こうに馬車が見え隠れするが、死角になっているのかこちらに気づく様子がない。
「ここはあまり治安が良くないんだろうか」
「密航かな、柄が悪そうだね」
ゼニスとクラウドが言葉を交わす。男達の後ろから声を掛けた。追い詰められている女性の姿が見えて、レグホーンはドキリとした。赤みの強い茶色の髪の女性だった。
――えっクラレット?
まさか、と思いながらも、彼女たちを追い詰めている悪漢を挟み撃ちにして、その辺りにあった縄を使って縛り上げた。ゼニスに衛士隊を呼んでこいと言ったが、この街の自警団も引き連れて戻ってきた。大したものだ。男二人はあっという間に衛士隊に引き渡された。自警団の面々も、追い詰められていた女性を気遣いつつも、祭の会場の警備もあるからと散り散りになった時だった。先ほどの女性の一人がその場に崩れ落ちるのが見えた。レグホーンはすぐさま駆け寄って抱き上げたが、その拍子に彼女の首に掛かっていたと思われる物が襟元からまろび出た。とても小さな、青い石の付いたリングだった。
――これは!
レグホーンは確信した。
――やはりクラレットだ、この女性は間違いなくクラレットだ。俺のリングを持ってくれていた……だが顔色が良くない。早く安全な場所に運びたい。
幸い、すぐ近くに彼女の家の馬車がいた。従者にクラレットを引き渡した時、後日屋敷に来て欲しいと侍女が申し出てくれた。まずは王都に行きたいと思っていた。王都でバーガンディ侯爵家について調べ、侯爵にも会いたかったから。だが本人がこの街に居るのなら、王都へ行ってから戻ってきてもいいだろう。
「ゼニス、今夜はここに宿をとろう、それで明日――」
「ちょっといいか、兄さん達」
ガタイの良い男性が声をかけてきた。先ほどの自警団を名乗っていた男性だった。
「兄さんら、お嬢様を助けてくれたそうじゃないか、礼をさせてくれ。お嬢様は俺たちの大事なお方だ、また辛い思いさせちゃなんねぇ。見たところ旅をしているようだが?」
「あ、ああ、ローシェンナから来た。礼ならば、宿まで案内してもらえたらそれで構わない」
ゼニスがそう言うと、男性はガハハと笑った。
「なら、うちに来てくれ! 宿屋だ、ちょうどいいだろう。ついでに美味い飯も出せるぜ!」
男性は自警団団長で、家業は宿屋なのだと道々で教えてくれた。宿を探していたから、言葉に甘えることにした四人は彼の後について行った。まだ日は暮れておらず、だが久しぶりにゆっくりできるかも。そう期待を抱いた。
冬の終わり頃に城を出て、どうせならあちこち行ってみないかと、今まで行かなかった国の端にまで足を伸ばしたり、逗留先で数日野良作業を手伝ったりしながら歩を進め、ようやくウィスタリアに来た。森林地帯が多く立ち寄れる街が少ない為、海岸線沿いに進んでカーマインに到着した。
「おい、あれ」
小さな港があるのを見つけて行ってみれば、男二人が女性を壁に追い詰めているのが見えて、四人は咄嗟に駆け出した。辺りに人の姿が見当たらない。建物の向こうに馬車が見え隠れするが、死角になっているのかこちらに気づく様子がない。
「ここはあまり治安が良くないんだろうか」
「密航かな、柄が悪そうだね」
ゼニスとクラウドが言葉を交わす。男達の後ろから声を掛けた。追い詰められている女性の姿が見えて、レグホーンはドキリとした。赤みの強い茶色の髪の女性だった。
――えっクラレット?
まさか、と思いながらも、彼女たちを追い詰めている悪漢を挟み撃ちにして、その辺りにあった縄を使って縛り上げた。ゼニスに衛士隊を呼んでこいと言ったが、この街の自警団も引き連れて戻ってきた。大したものだ。男二人はあっという間に衛士隊に引き渡された。自警団の面々も、追い詰められていた女性を気遣いつつも、祭の会場の警備もあるからと散り散りになった時だった。先ほどの女性の一人がその場に崩れ落ちるのが見えた。レグホーンはすぐさま駆け寄って抱き上げたが、その拍子に彼女の首に掛かっていたと思われる物が襟元からまろび出た。とても小さな、青い石の付いたリングだった。
――これは!
レグホーンは確信した。
――やはりクラレットだ、この女性は間違いなくクラレットだ。俺のリングを持ってくれていた……だが顔色が良くない。早く安全な場所に運びたい。
幸い、すぐ近くに彼女の家の馬車がいた。従者にクラレットを引き渡した時、後日屋敷に来て欲しいと侍女が申し出てくれた。まずは王都に行きたいと思っていた。王都でバーガンディ侯爵家について調べ、侯爵にも会いたかったから。だが本人がこの街に居るのなら、王都へ行ってから戻ってきてもいいだろう。
「ゼニス、今夜はここに宿をとろう、それで明日――」
「ちょっといいか、兄さん達」
ガタイの良い男性が声をかけてきた。先ほどの自警団を名乗っていた男性だった。
「兄さんら、お嬢様を助けてくれたそうじゃないか、礼をさせてくれ。お嬢様は俺たちの大事なお方だ、また辛い思いさせちゃなんねぇ。見たところ旅をしているようだが?」
「あ、ああ、ローシェンナから来た。礼ならば、宿まで案内してもらえたらそれで構わない」
ゼニスがそう言うと、男性はガハハと笑った。
「なら、うちに来てくれ! 宿屋だ、ちょうどいいだろう。ついでに美味い飯も出せるぜ!」
男性は自警団団長で、家業は宿屋なのだと道々で教えてくれた。宿を探していたから、言葉に甘えることにした四人は彼の後について行った。まだ日は暮れておらず、だが久しぶりにゆっくりできるかも。そう期待を抱いた。