ぼくらは薔薇を愛でる

対面

 その頃、バーガンディ侯爵家では夕食の時刻だった。娘クラレットが領地にいるため、オーキッドは一人で食事をする。寂しい気もするが、使用人らが常にそばに居てくれるし気も紛れる。一日あった事を話しながら、また使用人らの話を主人へしながらの時が流れていた。

 誰かの訪問を告げる音が屋敷に響いた。すぐさま様子を見に出た執事は駆け戻ってきて、食堂のオーキッドに報告をした。
「旦那様、隣国ローシェンナより王家の使者が参られました」
「王家だと? なぜだ」
 手にしていたフォークが音を立てて落ちた。
「わかりません、宰相補佐と護衛の騎士のお二人です、応接間へお通ししてお待ちいただいております」
「わ、わかった、行く」
 口元を拭い、着ている物を整え、髪を軽く撫でつけてから応接間に急いだ。

 ――何故だ、何故王家の使者が我が家に?! 先日の取引で何か法を侵してしまったのだろうか、どうしてどうして……。

 ぐるぐると考えながら応接間の戸を開けた。
「お待たせいたしました、バーガンディ侯爵家が当主オーキッドにございます」

 入ってきた当主の姿を見て、二人はソファから立ち上がり一礼した。
「バーガンディ侯爵、突然の訪問をお許しください。私たちはローシェンナ王家の使者として参りました、宰相補佐のゼニス、こちらは護衛のクラウドにございます。明日昼過ぎ、ローシェンナ王家第一王子レグホーン殿下がこちらに伺いたいのですが、ご都合は――」
「でっ殿下が? ああああ明日は一日家におりますからっ、何時でも構いません。しかし何故、殿下直々なのでしょうか!? 何かローシェンナの法を侵したとか……?」
「そういう事ではございません、ご安心ください。目的は、明日、殿下の話を聞いていただけたら」
「そうですか……わかりました、では明日昼過ぎで如何でしょうか」
「構いません、昼過ぎに伺います」

 二人を馬車で宿まで送る手配をし見送ったオーキッドは、玄関で彼らを見送りながら考え込んだ。

 ――何故ローシェンナの? 法を侵したのではない。それ以外に理由が、ある……な、クラレットか!

 幼い頃、一度だけローシェンナに連れて行った。皮膚科を受診したあの時、街で友達になったと言った少年の名は、レグ・ジョンブリアンだった。明日来るという殿下の御名前はレグホーン……レグ……ジョンブリアン。
 クラレットが茶会に呼ばれたと聞いて、見せてもらった招待状に書いてあった家名ジョンブリアンとは、王妹の降嫁先で、王妹には娘が二人おり男児は居ない。そして帰国前日、クラレットと話をさせて欲しいと言ってきた少年、あれがもしかしたら殿下だった? ならばクラレットは知っているんだろうか。

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