ぼくらは薔薇を愛でる
君を
ベッドにクラレットを座らせ、隣に自身も腰を下ろした。
「僕は幼い頃から"痣を持つ者"が伴侶なのだと言われてきた。僕が生まれる時、母上に神託があったんだ。『痣を持って生まれてくる王子は、対の痣を持つ者を伴侶にすれば国は安泰』だと」
レグホーンは自身の痣のある左胸辺りの服を軽く握っていて、空いた片方の手はクラレットと繋がれたままだ。
「これを聞いた父上たちは、国中の痣を持つ令嬢を集めて僕とお見合いをさせた」
繋がれた手に力がこもる。
「神託は、『対の痣を持つ者』と言った。だから痣を持つ令嬢を集めはしたが、その中に『対になる痣』はいなかった」
「どういう風にして、対だと判るの?」
「形なのか、位置なのか、それはわからなかったけれど、痣を持つ同士が触れ合えば何らかの反応があると言われていた」
これを聞いてクラレットは、初めて手を触れた瞬間の、あの衝撃を思い出した。重なっていた手はいつの間にか手のひらが合わさっていて、指が絡みあっていた。
「――それって」
「ん。それで一人も居なかったから父上にお願いしたんだよ。もし誰もいなかったら妃は自分で見つけたいって。大人になったら旅をして、そこで出会いたいって」
クラレットの肩を抱き寄せた。
「そのための準備として、スプリンググリーンで、旅に出ても困らないように色々勉強していたんだ。そして君と出会った」
クラレットの顔を覗き込んで、その額に口付ける。
「レグ、と名前を変えていたのはその為」
「うん。ジョンブリアンは叔母の降嫁した侯爵家の名前で、たくさんの大人が僕のわがままを受け入れて動いてくれていた」
「ん」
あの頃もそんな話をした。大人たちが諌めず動いてくれたなら許されてるという事だから、子供のうちは全力で甘えたらいいと思ったのを思い出した。
「そして君と出会って一目惚れした。それから初めて手を握った瞬間、電撃が走った。その日の夜はここの痣が熱くて眠れなかったんだ――君もだろうか」
問われて、うん、と頷いた。同じく熱くて眠れず、冷やしたタオルを当ててやり過ごしたと打ち明けた。
「それが、神託のいう疼きなのだとはすぐに思い当たらなかった。君に痣があるとは思わなかったしね。僕の痣が反応したのはたまたまで、これを父上に報告でもしたら君はおそらくあの時からローシェンナに囚われていた」
「囚われるだなんて、そんな」
大袈裟な、と頭を振って否定するクラレット。
「大袈裟じゃない。そうなっていたと思う。幼い頃から妃教育を受けさせていた代もあったから警戒したんだ。君を、まだ出会ったばかりの君の人生を縛ったらいけないと思った。もしかしたら国でやりたいことがあったりしたら悩ませてしまう。後悔させてしまう」
クラレットはレグホーンに頭を寄せる。
「会うたびに君をどんどん好きになっていって、離したくなくて、帰国すると聞いて慌ててリングの首飾りを君に渡した」
クラレットは首に下がる小さなリングを引き出して手のひらに乗せた。リングはとても小さく、そこについている石もとても小さい。だが、もらったあの時から変わらず綺麗な濃い青色を保っている。
「それはね、僕の目と同じ色の石を嵌め込んであるんだ。ローシェンナでは生まれた男の子へのお祝いとして贈るのが風習にあって、その子が大人になって好きな人ができたら、婚約する証に、相手へ贈るんだ」
ドキン、とした。この首飾りを贈った時の事を思い出してみれば、たしかに「大人になったら迎えに行く」と言われた。互いを繋ぐ証だとも言っていた。
「僕は幼い頃から"痣を持つ者"が伴侶なのだと言われてきた。僕が生まれる時、母上に神託があったんだ。『痣を持って生まれてくる王子は、対の痣を持つ者を伴侶にすれば国は安泰』だと」
レグホーンは自身の痣のある左胸辺りの服を軽く握っていて、空いた片方の手はクラレットと繋がれたままだ。
「これを聞いた父上たちは、国中の痣を持つ令嬢を集めて僕とお見合いをさせた」
繋がれた手に力がこもる。
「神託は、『対の痣を持つ者』と言った。だから痣を持つ令嬢を集めはしたが、その中に『対になる痣』はいなかった」
「どういう風にして、対だと判るの?」
「形なのか、位置なのか、それはわからなかったけれど、痣を持つ同士が触れ合えば何らかの反応があると言われていた」
これを聞いてクラレットは、初めて手を触れた瞬間の、あの衝撃を思い出した。重なっていた手はいつの間にか手のひらが合わさっていて、指が絡みあっていた。
「――それって」
「ん。それで一人も居なかったから父上にお願いしたんだよ。もし誰もいなかったら妃は自分で見つけたいって。大人になったら旅をして、そこで出会いたいって」
クラレットの肩を抱き寄せた。
「そのための準備として、スプリンググリーンで、旅に出ても困らないように色々勉強していたんだ。そして君と出会った」
クラレットの顔を覗き込んで、その額に口付ける。
「レグ、と名前を変えていたのはその為」
「うん。ジョンブリアンは叔母の降嫁した侯爵家の名前で、たくさんの大人が僕のわがままを受け入れて動いてくれていた」
「ん」
あの頃もそんな話をした。大人たちが諌めず動いてくれたなら許されてるという事だから、子供のうちは全力で甘えたらいいと思ったのを思い出した。
「そして君と出会って一目惚れした。それから初めて手を握った瞬間、電撃が走った。その日の夜はここの痣が熱くて眠れなかったんだ――君もだろうか」
問われて、うん、と頷いた。同じく熱くて眠れず、冷やしたタオルを当ててやり過ごしたと打ち明けた。
「それが、神託のいう疼きなのだとはすぐに思い当たらなかった。君に痣があるとは思わなかったしね。僕の痣が反応したのはたまたまで、これを父上に報告でもしたら君はおそらくあの時からローシェンナに囚われていた」
「囚われるだなんて、そんな」
大袈裟な、と頭を振って否定するクラレット。
「大袈裟じゃない。そうなっていたと思う。幼い頃から妃教育を受けさせていた代もあったから警戒したんだ。君を、まだ出会ったばかりの君の人生を縛ったらいけないと思った。もしかしたら国でやりたいことがあったりしたら悩ませてしまう。後悔させてしまう」
クラレットはレグホーンに頭を寄せる。
「会うたびに君をどんどん好きになっていって、離したくなくて、帰国すると聞いて慌ててリングの首飾りを君に渡した」
クラレットは首に下がる小さなリングを引き出して手のひらに乗せた。リングはとても小さく、そこについている石もとても小さい。だが、もらったあの時から変わらず綺麗な濃い青色を保っている。
「それはね、僕の目と同じ色の石を嵌め込んであるんだ。ローシェンナでは生まれた男の子へのお祝いとして贈るのが風習にあって、その子が大人になって好きな人ができたら、婚約する証に、相手へ贈るんだ」
ドキン、とした。この首飾りを贈った時の事を思い出してみれば、たしかに「大人になったら迎えに行く」と言われた。互いを繋ぐ証だとも言っていた。