ぼくらは薔薇を愛でる
ここからだ
屋敷は本当に小さかった。玄関扉を開けると気持ちばかりのホールがあり正面中央に置かれた大きな花瓶に生けられた花が場を華やかにさせている。その奥の扉は中庭へ通じ、右の扉は応接間、左は食堂とそれに続く厨房、家事室、使用人達の部屋がある。
2階に上がれば、レグホーンが使うメイン部屋のほか、従者の部屋、客間が2つ。メインの部屋は居間と寝室に別れていて、居間には机と本棚、ソファにテーブルが置かれていた。
「こちらが本日よりお過ごしいただく部屋でございます。あなた様はこれより、ジョンブリアン侯爵の遠縁の令息『レグ・ジョンブリアン』様。ここに滞在中はこのお名前になります」
屋敷の執事から説明を受ける。
「うん、わかった。レグ・ジョンブリアン」
新しい名をもらい、今日から別人となるようだと思うと何となくソワソワした。
「部屋の扉は鍵がかかりますゆえ、お休みになられる際は必ず施錠をなさいませ。王城とは違って、ここは一般の民が行き交う通り沿いにありますから」
「治安が悪いのか?」
「悪くはございませんが、鍵をかける、という事に慣れておかねばなりませんから」
「わかった」
言われてみればそうだ。城の部屋は鍵は掛かるが、廊下に常に護衛がいたから余程でない限りは掛けた事がなかった。
「御用がありましたら、こちらの紐を引っ張っていただければ、その時担当の者が参ります」
そう言って手にしたのは、天井から下がる太い紐で、引っ張ることで使用人の控室にあるベルが鳴るのだという。
部屋を出て、手元の資料を見ながら屋敷内を案内を続ける執事。
朝は起こさないから自分できちんと起きて身支度を整えること。食事は食堂へ降りてくること。それから家事室にも案内され、数日置きにここから新しいリネンを持っていき寝具の交換を行うこと。洗濯物の置き場所、掃除道具の在り処も説明を受けた。それらは初めて行う事だから数回は手伝うけれど、以降はご自身で、という話になっていた。街へ行く前に、まず自分の身の回りの事を屋敷内で覚える必要があった。
風呂の準備や風呂場の掃除は使用人が担当し、大きな洗濯物も使用人が行うが、いずれは洗濯も教えてくれるという話だった。料理も、15歳に近づいて火が扱えるようになれば追々覚えてもらうという風なことも言われたが、覚える事が多すぎて少々聞くのも疲れ、あまり良く聞いていなかった。生返事が出てきたレグの様子を感じ取った執事は話を切り上げた。
「あとはこちらの資料をお読みいただいて、不明点や改善点、ご希望などがございましたら都度、おっしゃってください。今日はこのままお寛ぎいただいて構いません」
十数枚の紙の束を渡され、それを手に、自室へ戻った。
やる事が、城にいた時に考えていたよりも格段に多く少々げんなりもしたが、これは自分が言い出したこと。たくさんの大人達が動いてくれたお陰で実現している事を思えば、投げ出すことはおろか弱音など吐いてはいられない。これから色々な事を覚えられるのだから。
窓から見える街の通りを見て、レグホーンは両の頬をパチン!と叩いた。
「よし。ここからだ!」
2階に上がれば、レグホーンが使うメイン部屋のほか、従者の部屋、客間が2つ。メインの部屋は居間と寝室に別れていて、居間には机と本棚、ソファにテーブルが置かれていた。
「こちらが本日よりお過ごしいただく部屋でございます。あなた様はこれより、ジョンブリアン侯爵の遠縁の令息『レグ・ジョンブリアン』様。ここに滞在中はこのお名前になります」
屋敷の執事から説明を受ける。
「うん、わかった。レグ・ジョンブリアン」
新しい名をもらい、今日から別人となるようだと思うと何となくソワソワした。
「部屋の扉は鍵がかかりますゆえ、お休みになられる際は必ず施錠をなさいませ。王城とは違って、ここは一般の民が行き交う通り沿いにありますから」
「治安が悪いのか?」
「悪くはございませんが、鍵をかける、という事に慣れておかねばなりませんから」
「わかった」
言われてみればそうだ。城の部屋は鍵は掛かるが、廊下に常に護衛がいたから余程でない限りは掛けた事がなかった。
「御用がありましたら、こちらの紐を引っ張っていただければ、その時担当の者が参ります」
そう言って手にしたのは、天井から下がる太い紐で、引っ張ることで使用人の控室にあるベルが鳴るのだという。
部屋を出て、手元の資料を見ながら屋敷内を案内を続ける執事。
朝は起こさないから自分できちんと起きて身支度を整えること。食事は食堂へ降りてくること。それから家事室にも案内され、数日置きにここから新しいリネンを持っていき寝具の交換を行うこと。洗濯物の置き場所、掃除道具の在り処も説明を受けた。それらは初めて行う事だから数回は手伝うけれど、以降はご自身で、という話になっていた。街へ行く前に、まず自分の身の回りの事を屋敷内で覚える必要があった。
風呂の準備や風呂場の掃除は使用人が担当し、大きな洗濯物も使用人が行うが、いずれは洗濯も教えてくれるという話だった。料理も、15歳に近づいて火が扱えるようになれば追々覚えてもらうという風なことも言われたが、覚える事が多すぎて少々聞くのも疲れ、あまり良く聞いていなかった。生返事が出てきたレグの様子を感じ取った執事は話を切り上げた。
「あとはこちらの資料をお読みいただいて、不明点や改善点、ご希望などがございましたら都度、おっしゃってください。今日はこのままお寛ぎいただいて構いません」
十数枚の紙の束を渡され、それを手に、自室へ戻った。
やる事が、城にいた時に考えていたよりも格段に多く少々げんなりもしたが、これは自分が言い出したこと。たくさんの大人達が動いてくれたお陰で実現している事を思えば、投げ出すことはおろか弱音など吐いてはいられない。これから色々な事を覚えられるのだから。
窓から見える街の通りを見て、レグホーンは両の頬をパチン!と叩いた。
「よし。ここからだ!」