ぼくらは薔薇を愛でる

 どうしようか考えていたら、ジョブズはおもむろにエクルの手をとって歩き出した。
「行きましょう、私に案があります」
 侍女に、あと頼むわね、と声を掛けて引かれるままにジョブズに着いていく。
「ジョブズ? どこへ向かっているの」

 ――手、手! 初めてなんだけど!?

 指が絡む繋ぎ方をして引かれて歩くエクルは頬を赤くしていた。好きな男から手を握られたら照れるに決まっている。すれ違う使用人や臣下達から生ぬるい目で見られながら向かった先は、騎士団の詰所だった。騎士は正門以外に独自に使う門があり、騎士団所属のジョブズならばそこは難なく通過できる。
 守衛に外出する旨を紙に書いて渡した時だった。

「ジョブズ、話がある。来い」
 ジョブズの上司だ。
 面倒だな、と思った。外出ができなくなることはないだろうが、説明をしなければならないのが億劫で、それよりも早くエクルと二人になりたかった。大きなため息をついて天を仰ぎ、エクルから数歩離れて上司と対峙した。

「お前、王女を連れ出してどうするつもりだ!? 外出の許可は得ているのか」
「ご安心ください。私が敬愛して止まない、とてもデキる上司が何とかしてくださいます」
 一瞬固まり、そして満更でもない顔で照れる上司。

「例え王のお耳に届いたとて何の問題もないでしょう。エクル様は街へお出になりたい、しかし王女としてではなく普通に街を楽しみたい。御祖父様のレグホーン様がかつてそうだったように、おそらくこれは王家の血なのです、抗えない血なのです」
 さも当然、という顔つきで言ってのけたジョブズに、ため息を着いて項垂れる団長。

「いいか、くれぐれも危ない所は――」
 専属護衛としてそんなことは当たり前な事だが、上司の言う事に被せてきた。

「帰りは日暮れの頃を予定しています。あとはよろしくお願いいたします」
 キリッと予定を告げる姿は優秀な騎士そのものだが、すぐ表情は緩んで、王女の手を取って歩き出した頃には嬉しそうな顔をしていたのを外回りの騎士に見られていた。

< 75 / 93 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop