捕まえたの、俺だから。
「お、お前怖いもの知らずかよ!今すぐ逃げろ!」
「は?なんで……」
戸惑っているのは『告っちゃおうかなー』と軽口をたたいた後輩くん。
うん、私も同じ気持ち。
私はちっとも怒ってないのに、どうして私を見て怯えるの?
慌てふためいて逃げろって、そんなどうして……。
「―――なんか言った?」
そう聞いたのは私じゃない。
声を震わせていた後輩に、疑問符を浮かべながら視線を送っていただけだから。
「なんも言ってないよね?」
言葉を続けたのは、いつの間にか私の前に壁のように立っている直くんだ。
顔は見えないけれど……温度のない声と、話すトーンに変化がないことから怒っているのが丸わかり。
普段、底抜けに明るい直くんから闇みたいなものを感じる。
調子に乗ってしまっていた後輩くんも私と同様にただならぬものを感じ取ったらしく、口を結んでこくこくと大きく頷いた。
圧をかける理由は直くんにはないはずだけど……冗談でもそんなこと言うなって、私の代わりに怒ってくれてるのかな?
じーっと大きい背中を見つめていると、必死に頷く後輩くんの様子に満足したのか直くんはくるりとこちらに振り返り、にこっと微笑む。