捕まえたの、俺だから。
……と、そこへ。
まっさらだったグラウンドに細長いシルエットが浮かんだ。
それが動き出し、だだっ広い茶色のキャンバスにゆっくりと大きな円を描き始める。
「……ふふ、相変わらず早いなぁ」
後ろ姿でもわかる特別な存在を見つけ、私は一人小さく空気を揺らした。
三浦 直(みうら なお)。一つ年下の男の子。
我が陸上部の中で最も早く風の間を駆け抜ける選手。
走るときのフォームが綺麗で、足の回転も速くて。
何時間だって、何度だって。
飽きることなく直くんの走る姿を見ていられる。
恋する女の子としてじゃなくて部のマネージャーとしても。
ただし、見ているだけでなにもしないのも悪い気がしてくるから、そこは部のお手伝いをしながら手の空いたときに見学、くらいに留めておくけれど。
「さて」
見惚れるのはこのくらいにしておいて、そろそろ部活へ行かないとね。
そう思い重たい腰を上げたとき、ふいっと。
直くんが顔を上げ、私と視線が交わった。
そして私に向かってぶんぶんと全力で両腕を振る。
鋭い風に捲り上げられたさらさらの茶色い前髪。
ジャージやウインドブレーカーに覆われた腕や脚には、実は筋肉がしっかりついている。
冬は白いその肌が、夏には黒くなるのがまたかっこいい。
集中しているときには鋭さを帯びる童顔に、今は遠くから見てもわかるほどの大きな笑みを浮かべている。
それらは1週間ぶりに見るもので……それでいて私へと一直線に満面の笑みが向けられているものだから、供給過多で無事に私の心臓はやられてしまった。
「はぁ……好き」
抑えきれないときめきが口から漏れる。
遠く離れた直くんに伝わるわけもなく、微かに熱を散らしながらその辺に転がるだけ。
でも、それでいい。
私を見て笑ってくれる、君の無邪気さにただ包まれていたいから。