捕まえたの、俺だから。
寂しいなんて言われたら。
ここ1週間、私と同じ気持ちだったんだって知ってしまったら。
悲しいのに嬉しいみたいな、そんな矛盾が私の中に生まれる。
そして、
「でも、今は先輩と一緒だから幸せ!!」
そんな期待させるようなことを言うから、悲しさなんてあっという間に喜びに飲み込まれてしまうんだ。
雪解けもまだのこの季節に、一瞬で春をもたらしそうな眩しい笑顔も。
空気を白く濁らせているのに、響きは透明でまっすぐに届く言葉も。
私の心を逸り出させる。止め方なんて、忘れそうになるくらい。
だけど。
「ちょっと直!大会近いんだから集中しなさいよ!」
「わっ、おい!そんなに怒んなくてもいいだろー!」
「うっさい!早く練習に戻る!先輩もあと3回来たらいなくなっちゃうんだから、頼りっぱなしは良くないでしょ!」
私たちの間を割って入るように飛び込んできた後輩ちゃんが、直くんの腕を遠慮なく掴む。
特にそれを不快に思う様子もない直くんはだだをこねているだけで。
同級生同士の仲睦まじいツーショット。
加えて、突き付けられる確かなタイムリミット。
目の前の現実に、心が密かに。そして激しくざわついた。