捕まえたの、俺だから。
こんなの、見たくない。でも、卒業なんてしたくない。
まだ直くんとの優しいひとときに縋りついていたい。
そんな贅沢で叶いそうもない願いが脳みそにぺったりと貼りつく。
でも、どうしたって時は過ぎていくものだって。私なんかとは直くんに似合わないって。
認めざるを得ないから。
諦めるしかなさそうだから。
「だからこそ―――」
「そのとおり!いやーさすがだね、女の子の方がしっかりしてるよね!直くんも、ほら。もうすぐいなくなる先輩の相手なんかしてる暇はないでしょ!めいっぱい練習に励まなきゃ!」
苦し気に顔を歪めてなにかを伝えてこようとした直くんを遮ってまでも、私は明るく笑ってみせた。
無理やりに上げている口角が自分でも引きつっているのがわかってしまう。
同時に、瞳が潤みかけているのが寒さのせいだけじゃないことも。
……自分で言って自分で傷つくなんて、ばかみたい。
「まどか先輩!!」
「直、どーどー。練習に戻るよ」
「でもっ!」
「先輩、直の邪魔をするくらいならこれから来ないでください」
直くんを無視してこちらへと向き直り、恨みがましい視線を向けてくる後輩ちゃん。
その中にはやっぱり部活仲間としてだけじゃない、直くんを特別に大切に想う気持ちからくる私への怒りが見えていたから。
「邪魔するつもりはなかったんだ、ごめんね」
言い訳にしか聞こえない言葉しか返せなかった。
なぜか怒った様子の、私になにか言いたげな直くんにも背中を向けるしかなくて。
後ろ髪を引かれながら、私は掃除をしようと体育倉庫へと向かったのだった。