捕まえたの、俺だから。
「そういえば、まどか先輩は俺にチョコくれないの?」
逃げるように黙って裏門へ歩き出した私の横に並びながら、挨拶みたいな気軽さでぎくりとするような疑問を投げてきた直くん。
『本当は本命をあげたかった』
なんて言えるわけもなく。
「……あげる予定」
私は一瞬だけつまった言葉をかろうじて絞り出した。
鈍感な直くんは、私が作ってしまったぎこちない間には気づかないでいてくれる。
でも、直くんが嬉しそうに細める目の柔らかさに、なんとなく生まれた罪悪感。
ゆったりと立ち込めるそれを私はいつもどおり見ないふりするの。
「やった!いつくれるの?今日?」
「うん、部活が終わってから。来週だと遅れちゃうからね」
一番に渡せなくなっちゃうから、とも言わない。
彼女でもないのに一番に渡したいだなんて、強欲がすぎる。
「だから、今は練習に集中すること!」
「わかった!おぉー!やる気が湧いてきた!頑張るぞー!!」
ばんざいのポーズで幼稚園児みたいにはしゃぐ直くん。