雨の降る夜は
今夜は他にも回る店がある。車を待ってる間、角が思い出したように言う。

「そう言えば昨晩、甲斐さんの名刺を持った客が来てました」

「女か」

おざなりに。

「堅気は珍しいですね」

「・・・憶えがねぇな」

玄人にしか手を出さねぇ主義だ。その時はまるで頭から抜け落ちていた。

「車、回しました」

運転手兼用心棒の鳥居が戻り、ドアを押さえたまま一礼する。雨になったのか、グレーのシャツは歪な斑点柄に見えた。
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