雨の降る夜は
差しかけられた傘に跳ねる飛沫(しぶき)。車の後部シートに乗り込み、雫を払い落とす。雨。夜の雨。ふいに蘇った。

「・・・・・・あの時の」

雷に怯え、うずくまってた女。確かに名刺をくれてやったのは俺だった。上着の内ポケットからスマホを抜き、角にかける。

「店に来た堅気の女、・・・名前は?」

『・・・マ、いえ・・・ミキ、・・・ミヅキ・・・でしたか』

角がどうにか絞り出した名前には憶えがあった。

『細くて地味な女でした。ツレはまあまあでしたが』

OL風情で髪を一つに結び、泣きそうな顔は化粧も薄かった。それくらいの印象だった。
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