雨の降る夜は
菊池さんが怪訝そうに声のした方へと視線を捩った。自分も釣られるように。

この季節でも濃色の三つ揃いに、下品じゃない模様入りのネクタイ。目が合って、記憶よりスマートな顔立ちだったのを、心臓が勝手に反応して波打つ。

「甲斐・・・さん」

無意識に名前がこぼれ落ちたのを。私を捉えたままで彼が薄く口角を上げた。

「ツレか?」

「あ、・・・違いますっ」

掴まれていた手を軽く振りほどくと、菊池さんが真顔でこっちを窺う。面倒ごとの予感しかしない。

「・・・牧野さんの知り合い?」
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