雨の降る夜は
単なる通りすがり、二度目の偶然。知り合いなんておこがましい。否定しようとして言葉に詰まった。

憶えていてくれたのがなぜか嬉しかった。一瞬、思い浮かんだ。甲斐さんが菊池さんを遠ざける口実にならないか、って。

だけど恋人のフリなんてとんでもない。思考回路が、乾いた音を立てて何かひねり出そうとするけど出てこない。追い詰められて咄嗟に。

「その・・・っ、この人は、私のっ、・・・好きなひとです!」

あいだの空気が数秒は固まっていた。

全てがあとの祭り、蒼白になってる場合じゃない。とにかく菊池さんに帰ってもらってから、死ぬ気で甲斐さんに謝ろう。清水の舞台から半身を乗り出した覚悟で。

「好きな、・・・って?彼氏いないって言ってたよね?」

どこか責める口調に、狼狽えながらも取り繕う私。

「片思いというか、なので、その」
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