雨の降る夜は
駅前通りと交差した広めの路地。車も人もそれなりに往来がある。でもなりふり構っていられない。怖いものは怖い。躰を竦ませ、ひたすら(こら)える。

「・・・おい、大丈夫か」

低く透る声が、自分にかけられたのだと気付くのに少しかかった。耳を塞いだまま恐る恐る声のした方に顔を上げる。

最初に目に写ったのは、綺麗に折り目のついたスラックス。視線をゆっくり上に辿っていく。淡い色のネクタイ、黒の三つ揃い、髪はツーブロックの男性が隣りに立っていた。

「雷が苦手か?」

雨音を縫うように届く声がなぜか耳に残り、見知らないそのひとに小さく頷き返す。「しょうがねぇな」と溜め息雑じりの気配で聴こえた刹那、不意に腕をつかまれ躰が浮いた。
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