雨の降る夜は
駅のロータリーの外れで車を降りた時には雨は止んでいた。蒸した湿り気に辟易するが夏はこんなもんだろう。年中スーツを着込むのも、とうに慣れた。

メテオは5階建ての飲食ビルに入るショットバーで、ここいらの繁華街は一ツ橋組のテリトリーだった。人の流れだの空気に疎くなると、色んな情報(モノ)を読み違える。こうして直に出向くのも性分だ。角を当てにしてねぇのとは違う。

濡れて人工の光を反射するタイル調の歩道。ゆっくり踏みしめながら歩く。・・・また雨の夜か。ミヅキとは、メテオに向かう途中で偶然出くわしただけだった。

三度目があるなら運命とやらに乗せられてやってもいい。時間は10時半を回っていた。あの女ならとっくに帰ってる頃だ、賭けにもならねぇ。・・・筈だった。

「・・・堅気には手を出さねぇ主義だろうが」

口から溜め息と独り言が勝手に漏れる。視線の先に捉えた、細くて折れそうな女のシルエット。神ってヤツの嫌がらせなのかと苦虫を噛み潰す。

あやふやな思いに、これでさっぱりケリを付けるつもりだった。賭けに敗けたと理由をこじつけて。
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