雨の降る夜は
長く紫煙を逃し、女の口から零れるだろう何かを待つ。わざと上を仰ぎ、視線は外した。

「・・・やっぱり分かりません。なにも知らないのに、どうして甲斐さんなのか、こんなに会いたかったのか」

真っ直ぐ聞こえた。ところどころ震えてた割りに芯が一本、腹で据わってそうに。

「だから教えてもらえませんか・・・?私が間違ってるなら、今ここで」

ああ・・・そうだな。間違いだらけじゃねぇか。

知らず口許が歪む。吐き出す最後の白い息。吸い殻を足許に放り、靴底でもみ消す。ミヅキと目が合い、あまりの滑稽さに喉の奥で笑いがくぐもった。

堅気の女が極道に惚れるなんざ。
極道が堅気の女に惚れるなんざ。
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