愛してるって言わないで
「綺麗だね」
病室にいる塔矢(トウヤ)は、そういった。
「そうだね」
美愉(ミユ)は、そう応えた。
「寒いから閉めようか」
塔矢がいった。
「ううん・・・もう少しそのままでいさせて」
そのとき、心地のよい風が、塔矢と美愉の肌をすべった。
「あ・・・」
美愉は、ベッドに横になりながら、窓の外に視線を向けた。
そのとき、何枚かの桜の花びらが、塔矢と美愉のいる病室に入ってきた。
美愉は、虚ろな目でそれを眺めた。
そして、美愉は少し微笑んだ。
「美愉?」
塔矢が、口を開いた。
「なに・・・?」
「明日も、明後日も、1年後も、2年後もこの桜を見よう」
「うん・・・・・・」
「美愉?」
塔矢がいった。
「なに・・・?」
「僕から離れないで」
そのとき、美愉は塔矢の顔を見た。
そして、美愉の目からは涙が流れ出した。
「塔矢・・・? 私・・・もう・・・・・・」
「大丈夫。僕がついてるから」
「私・・・もっと塔矢のそばにいたいよ・・・・・・」
「大丈夫。絶対に・・・」
しばらくして。
美愉は、ふたたび窓の外を見た。
美愉の視線の先には、桜の木に止まっている白い鳩がいた。
「私・・・」
「ん・・・?」
「今度、生まれ変わったら、あの白い鳩になって自由に空を飛びたい・・・」
美愉は、そういった。
「うん・・・僕も今度生まれ変わったら白い鳩になるよ。そして、必ず美愉を見つける」
「ありがとう・・・塔矢・・・」
「大丈夫。絶対に見つけ出すから、安心して!」
「うん・・・・・・」
また、風が吹いた。
「美愉」
塔矢が、ゆっくりと話しかける。
美愉は、塔矢の目を見た。
「美愉・・・美愉・・・愛してるよ・・・本当に・・・本当に・・・心の底から愛してるよ・・・」
そのとき、美愉の目からは大粒の涙が出て、止まらなかった。