経理部の女王様が落ちた先には
社会人5年目 27歳 11月



「俺、やりたくないから。」


「そう言っても、俺がやらせるのは分かってるだろ?もう観念しろよ。」



この大企業の社長の息子、副社長の勉(つとむ)が17時半頃に俺を呼び出し、副社長室にあるソファー席の向かいから言ってくる。



「なんでも、アンタの言うとおりになると思うなよ?」


「思ってるよ。今のところ、全てそうなってる。」


「怖~。奥さん、気の毒・・・。」



純粋で可愛らしい、この従兄弟様の奥さんを思い浮かべながら言った。



「奥さんのことは、それはそれは大切にしてるぞ?」


「アンタが言うと、ただ怖いだけだな。」


「いや、本当に。
こんなに優しい自分が存在したことに毎日驚いてるよ。」


「どうだか。アンタと俺、似てるから。
その言葉は全く信じられないな。」



そんな、小さな頃からの会話を、今日もダラダラとしていく。



「気の毒なのは、直人だよ。
本気で好きになれる子に出会えてないとか。」


「そんなのは、一時の錯覚だろ?
俺、そういうの信じないから。」


「俺もそうだったが・・・。
まあ、直人にもいつか分かるよ。」



話が脱線していった時、この部屋の内線が鳴った。
さっきまで気配を消していたこの人の優秀な秘書は、内線を取った後に扉に向かった。



それを、何となく、見ていた。
< 115 / 213 >

この作品をシェア

pagetop