経理部の女王様が落ちた先には
この人と閉店の喫茶店を出て、並んで立つ。



「受けてみなよ。」



そう言われ、わたしは隣に立つこの人を見上げた。



「税理士試験の科目。
まだギリギリ申し込み間に合うだろ?
分からないところ、俺が教えるから。」



「教えて・・・くれるんですか?」



「俺の世話になってる人から、会社を回すためには今後必要になるから取っておくよう、学生時代から言われて。大学の時に取ったよ。」



「そう・・・だったんですか。」



「毎日は無理だけど・・・ココ、来てよ。」



わたしは驚きながら、この人を見上げる。
その人は、喫茶店を見ている。



そして、またわたしを見下ろす。
その目は、深く・・・優しい・・・。



「ココにいたら、俺が教えに行く。」



わたしは、ただ、ただ、この人を見上げた。



「教えに行くから、待ってて?」



見上げたこの人の後ろにある月が、とても綺麗だったから。



ネクタイという鎧を取り、戦い終えた騎士のようなこの人に、わたしは頷いた。



そんなこの人が優しく笑い、わたしの腕を少し強引に引いたと思ったら・・・



この人の胸の中に・・・



そして・・・



優しく、優しく、唇を重ねられた・・・。




「お礼、先にもらっておく。」




そう言って笑ったこの人からは、少しだけ香るタバコの匂いがした・・・。
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