経理部の女王様が落ちた先には
「みんな、これ夏休みのお土産ど~ぞ!」



少し日焼けした経理部の先輩が、1人ずつにお土産のお菓子を配っていく。
デスクに座る順番で配っていき・・・
当たり前のようにわたしは飛ばされる。



そんなわたしに、愛ちゃんが慌てているのが分かる。
わたしは愛ちゃんに小さく笑った。



「残ったお土産、ここに置いておくね?
みんなのお土産で、お菓子沢山~!
あれ、花崎さんのは?」



お土産の箱が集まった棚には、わたしからのお土産はない。



「今年は、どこにも行きませんでしたので。」



「そうなんだ。
花崎さんって、友達も彼氏もいなさそうだもんね~!」



「去年は実家だっけ?
そのお土産、誰も食べなかったからって怒ってるの?こわ~い!
女王様顔の花崎さんが怒るとか、それは怖いって~!」




経理部の中、先輩達の笑い声が響く・・・。





落ちない・・・




落ちない・・・





でも・・・





わたしには、友達と呼べる友達は、いない・・・。




そのことは、事実で・・・。





そして、彼氏だって・・・





一瞬、一瞬だけ、騎士のようなあの人を思い浮かべてしまった・・・。





名前も知らない、あの人のことを・・・。






わたしは小さく笑いながら、数字に目を落とす。






名前も知らない、連絡先も知らない・・・






わたしは、あの喫茶店に行かなければ、あの人に会うことも出来ない・・・。






わたしの心の中に溜まりつつある何かが、その事実に少しだけ、悲しそうに震えた。
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