俺を嫉妬させるなんていい度胸だ〜御曹司からの過度な溺愛〜
 車がマンションのエントランスに着くと、自分で扉を開けあっという間にマンションの中に消えていく姿を、運転手は呆気に取られ見送る。

 今までなら、扉を開けるまで待っていた。それが、一瞬でいなくなってしまう。挨拶をする暇すらなかった。

 軽い足取りで部屋に到着したが、人の気配がない……。

「芹?芹?」

 芹の姿がなく焦る。リビングから仕事部屋、更には寝室、芹の部屋と順に見るがいない……。

 人間テンパるとまともな判断が出来ないと言うが、今の暁はまさにそれだ。玄関に戻り立ち尽くす。

 定時に会社を出て、ロッカーに寄ることもなく、車で帰って来たのだから、先に着くのは当たり前なのだ。

 電話を取り出し、芹ではなく掛けた先は……。

「もしもし?」訝しげな声が聞こえた。

「駿!どうしよう」

「何があった?」珍しく弱気な暁に何事かと思う。

「芹がいない……」

 この世の終わりのような声だ。

「……」

 駿は、時計を見て思う。暁はバカなのか?自分が急いで帰りすぎて、先に着いたことに気づいていないようだ。

「事故に遭ったのかもしれない……。家出はないと思う……」

「ブハッ」我慢の限界が来て吹き出した。
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