【完】ハッピーエンドに花束を
「あ、暁人!名前刻印できるって!せっかくだからしてもらおうよ」
「うん、名前は───」
数分後。ローマ字で「yukari」と刻印されたリップは、綺麗にラッピングされて戻ってきた。ショッパーバッグも上品で、かなり高見えする。
我ながらに良い買い物が出来たと自画自賛していた私は「気に入ってくれるといいね」と笑った。
私も高校入学の時にお母さんに買ってもらったリップは今でも大事に残してあるのだ。従姉妹さんにも使ってもらえたら嬉しい。
「ありがとう。本当に助かったよ」
「ただリップを決めただけだけどね」
* * *
私たちは百貨店を出て、商業施設のすぐ近くにある噴水広場へ足を運ぶことにした。人工芝の広がる敷地の真ん中には大きな噴水があって、囲むようにベンチがある。私たちの他にも休憩しているひとたちがちらほらといた。
ベンチに座った彼は「芽依はさ、」と口を開く。
「とても良い人だよね」
「どうしたの急に。褒めても何も出ないよ」
私も暁人と拳ひとつ分の距離を開けて、ベンチに腰を下ろす。
「自分のものじゃないのに真剣に選んでいる姿見てさ、きっと良い人なんだろうなって思った」
「そんなことないよ。ただ、喜んでほしいなって思っただけ」
この世の全ての人に優しくなれるような神様にはなれないよと、そう告げる。