【完】ハッピーエンドに花束を

「お世辞でも嬉しい。帰ってから食べてね」
「今じゃダメ?」
「口に合わなかったらショックだからって、暁人?!」

 言い終わる前に、暁人はブラウニーを一切れつまんで口に入れてしまった。
 もぐもぐと咀嚼している間、私の心臓は暴れ回る。口に合わなかったらどうしよう、手作りじゃなくて既製品にしたら良かった、とか沢山の後悔の波が襲ってきた。

 そしてごくんと飲み込んだ彼。
 次の言葉を黙って待つ。

「うん。とても美味しいよ」
「本当?甘すぎないかな」
「ちょうど良い甘さだよ。本当に美味しい」

 全部食べるのもったいないなぁ、と笑う暁人の言葉にホッと胸を撫で下ろす。どうやら不味くはなかったようだ。

 大学受験の時以上に寿命が縮んだ気がする。

「ありがとう。貰えると思ってなかったから、すごく嬉しい」
「ううん。こちらこそ受け取ってくれてありがとう」

 何がともあれ作ってよかった。安心した私は、緊張の糸が解れたようにドーナツを食べ始めた。
 いつ渡そうとずっとタイミングを見計らっていたから、映画の前後は気が気じゃなくて正直飲み物も喉が通らなかったのだ。
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