【完】ハッピーエンドに花束を
「ふふ、改めて言うと恥ずかしくなってきた」
恥ずかしさを紛らわせるように笑って横を向く。すると彼は私から顔を背けてそっぽを向いていた。
あれ、と思った私はすぐににんまりと笑みを深くする。
「もしかして照れてる?」
「照れてない」
「嘘だ」
「照れてないってば」
暁人は照れていた。本人は照れていないと言い張るけれど、耳がいつもより赤い。
「やっぱり照れるでしょ。耳赤くなってるよ」
ちょっとした意地悪で言ったつもりだった。
珍しく照れたその顔を見てやろうと、暁人の顔を覗き込むように前に身を乗り出す。
いつもドキドキさせられているのは私ばかり。たまにはやり返してやると、ほんの少しの出来心だった。
してやったりと「ふふふ」と笑みをこぼす。
勝った、とそう思っていた。
しかし。
「ほら、やっぱり───」
その瞬間、タイミングを計っていたかのよつに彼の顔がこちらを向く。
その勢いに驚いて目も見開いたのもつかの間。
私の唇は、彼のソレと重なった。
ふにゃりと柔らかい唇から伝わってくるのは絶妙な温かさ。時が止まったかのように身体が動かなくなる。
キスをされた。少し遅れて理解した私はロボットのように固まる。微動だにしない私を見て、顔を話した暁人は目元を緩めて笑みを浮かべた。
そして、彼はまた、近づいてくる。
ぴとりと、再び唇は磁石のようにくっつく。
スローモーションのようにゆっくりとした動作がやけに官能的に思えて、私は“幸せ”や“恥ずかしさ”よりもお腹がむず痒くなって不思議な感覚になった。
「もしかして芽依、照れてるの?」
いつの間にかファーストならぬセカンドキスもこの一瞬に奪われてしまった。
今も目と鼻の先にいる暁人は、どこか勝ち誇っているような表情をしている。また私だけが翻弄されている。
「顔、りんごみたいに真っ赤だよ」
なんだか今日の暁斗は意地悪だなぁ。そう口を尖らせている私だが、どんな表情でも「格好良い」と思うくらいには彼に溺れきっているみたいだ。