【完】ハッピーエンドに花束を
「本当は別れたくない」と縋り付きたい思いを見透かされそうで、肝心な時に目を合わせられない。暁人は今、どんな顔をしているのだろう。
もし、もしも、暁人も同じ気持ちだったら。そう祈ってしまう自分がいた。
「全部、暁人のおかげだよ。本当にありがとう」
これで最後だ。口角をぎゅっと上げて、笑顔を作る。
「今日でお別れになっちゃうけど、これからも元気で───」
お別れの言葉。しかし、突然やってきた衝撃に驚いた私は途中で声が出なくなった。
「待って、」
親しんだ大好きな匂いが私を包み込んだのだ。
「・・・暁人?」
彼は私を正面から抱きしめた。
いつものように優しい手付きではなく、掻き抱くような力強い腕がぐるりと背中に回されている。
1ミリの隙間も許さないと云わんばかりに身体を密着させ、暁人は私の肩口に額を擦り付けるように顔伏せていた。
「嫌だ」
「暁人?」
聞こえたか細いか声は、しっかりと私の耳に届いた。
「俺は、別れたくない」
もしかして、暁人も同じ気持ちだったのだろうか。私との別れを惜しんでくれているのだろうか。思ってもいなかった彼の言葉に、自然と涙が溢れてくる。