【完】ハッピーエンドに花束を

「えっと、」

 いやいや、と心の中で全力で首を振る。だって望月くんにとって私はただの初めましての人だ。そんな人と付き合うはずがないだろう。
 いくら優しい彼でも、話すどころか顔も合わせたことのない同級生と付き合えるはずがない。私だったら無理だ。

「花村さん?」
「いや、その・・・ですね」

 しかし、卒業してしまったら高校生活はもう2度と繰り返すことが出来ない。
 
 順風漫歩に過ごしてきた日々に、最高の終止符を打ちたい。そんな貪欲な自分が沸々と湧き上がってくる。残りの1カ月全部を、恋愛に注ぎ込んでも良いかもしれないと、そんな気持ちが前に押し出てきた。

 だから決めた。

 当たって砕けたとしても、この告白を最後の思い出として高校生活に華を持たせたい。

「卒業するまでの残り1カ月間限定で、付き合ってくれませんか」
 
 頭を下げて、返事を待つ。望月くんがどんな顔をしているのかは分からない。困らせていることを承知の上で、告白の返事が良いものになるようにと祈った。

 秒針の音よりも、己の心臓が波打つ音の方が早い。でも、ぎゅっと目を瞑って返事を待つこの時間は、ひどく長く感じた。

 そして次に、私の耳に届いたのは───

「良いよ。短い間だけど、よろしくね」

 花村さん。そう言って笑う、この今瞬間をもって“彼氏”となった望月くんの優しい声だった。
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