カラダの関係は、お試し期間後に。
躊躇う暇もなく、掴まれた腕を引っ張り上げられるまま綾乃は立ち上がった。
その様子を見ていたバーテンくんが、横から口を挟む。

「ちょ、おい…その子はっ──」

綾乃の腕を引っ張ったまま、扉の外に向かうすれ違いざまにバーテンくんの肩に手を置くと、葵はペロッと舌を出して言った。

「ごめーん、マスター!コイツ、俺がもらってくわ♡」

そうしてバーテンくんのBARから出た後、しばらく綾乃は葵に引っ張られたまま走らされるハメになった。
息切れし始めた頃、人気(ひとけ)のない夜道でようやく葵の手から解放された綾乃は乱れたその呼吸を整える前に葵を問い詰めた。

「ゼェ、ゼェ、ハァ……ちょっと、桐矢っ!会社のみんなは?…飲み会してるんじゃなかったの?!」

その問いかけに葵はすぐには答えず、空中を仰いで大きなため息を吐くのだった。
そして、腕で目元を覆うとようやく口を開いた。
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