カラダの関係は、お試し期間後に。
その続きは、急に掴まれた腕を引っ張られてビックリした綾乃の口から出ることはなかった。

「あっ…何すっ──」

力強く体を引き寄せられた瞬間の中で、葵の髪が自分の顔にかかるのがわかった。

──突然のキス。

彼の唇の柔らかな感触を実感するまでの、ほんの数秒間。
それは瞬く間に、綾乃の頭の中すべてを真っ白に埋め尽くした。

「………は?」

それが、唇が離れた先の葵の顔を見て初めて口から出たものだった。

「こーゆーことだから。」

そう言ってまっすぐに目を見つめられた後、目の前の葵の顔がみるみるうちに赤く染まり上がっていくのを見て初めて、キスされたことに気づく。

「え?」

呆然としたままの綾乃を取り残し、葵は扉に向かって歩いていく。
そしてドアノブに手を掛けて一言、小さく吐き捨てるのだ。

「いい加減気づけ!……バカ」
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