初恋
長い間ずっと片想いをしている彼に「誕生日プレゼントは一口チョコがいい」とストレートにアピールしたというのに……。
彼はプレゼントどころか、姿を見せてもくれなかった。
多分これは、初恋なのだと思う。共通の趣味も多くて、それらに対する感じ方や考え方もよく似ている。おかげで話していてとても楽しい。時間が許すなら、いつまでだって話していたい。気付けばいつも、彼のことを考えている。これを恋と呼ばずに何という。
だから彼から誕生日を聞かれたときは、彼も同じ気持ちでいてくれたのだと思っていた、のに……。当日、彼とは朝に挨拶したきり、話すことはなかった。
誰かに何を貰っても、心は揺れ動かない。たとえそれが大好物のチョコレートで、とても高価で、最高に美味しいものだったとしても。
彼がいい。彼からなら、石ころを差し出されたって嬉しいのに。もし今日、彼がわたしの誕生日を祝ってくれたのなら、気持ちを伝えようと思っていたのに。誰かに告白をするなんて初めてのことだから、長い時間をかけてシミュレーションして、台詞も完璧に覚えてきたというのに……、……。
これまでの日々は、全てわたしの勘違いだったのだろうか。恋とは、こんなにも難しいものなのだろうか。どこで道を間違えたのだろうか。戻ることは可能だろうか……。どれもこれも初めてのことで、わたしには対処の仕方が分からない。
最後の望みを込めて、辺りを見回しながら、帰路を行く。行く。行く。吹き抜ける風がひどく冷たい。悲しみ嘆く心が、石ころより硬くなるのを感じた。
(了)