叶わぬ恋ほど忘れ難い
切れ長ではあるけれど大きな目と、くっきりとした二重まぶた。それを隠してしまうのは勿体ないが、よく似合っている黒縁眼鏡。すっと通った鼻筋に、薄い唇。その唇は、今はへの字になっている。
この果てしなく格好良い彼の顔を歪ませているのは、他でもないわたしだ。それに罪悪感はあるけれど、わたしにも譲れないものがある。
どうしてもこの人に、ピアスホールを開けてもらいたい。そう決意したのは、昨日のことだった。休憩時間に店のすぐ隣にあるショッピングモールに駆け込み、閉店ぎりぎりの時間にピアッサーを買い求めた。
そして今日。店長は十八時で退勤したが、まだスタッフルームに残っていることが分かったので、わたしの休憩時間に、ピアスを開けてほしいとお願いしたのだ。
店長はすぐに「いいよ」と快諾したけれど、すでにわたしの耳たぶには、左に三つ、右に二つのピアスがあり、店長は「どこに?」と首を傾げる。わたしが「左耳の軟骨に」と答えると、彼は途端に渋り出した。
店長自身もピアスホールは開いているし、友人に開けてあげたこともあるらしいが、それは全て耳たぶのこと。軟骨に穴を開ける、なんて恐ろしい言葉の響きに、相当な心の準備が必要みたいだ。
「無理無理無理」と後退る店長に、軟骨用のピアッサーを押しつけ、真顔で懇願する。それでも折れない店長を説得するため、軟骨ピアス経験者のわたしの友人に電話し、アドバイスをもらった。まあアドバイスと言っても「躊躇わず一気に!」「男性は力もあるし大丈夫!」という楽観的なものだった。
なおも折れない店長は「スタッフルームの衛生面が」と言い出すから、わたしのロッカーから消毒液とウェットティッシュを取り出すと、渋々、嫌々、ピアッサーを手に取った、が。それから十分以上。未だわたしの左耳の軟骨に、穴は開いていない。