叶わぬ恋ほど忘れ難い
鏡も見ずに適当にぶっかけた消毒液は耳を逸れ。首や肩にぱたぱた落ちる。それを見てようやく笑った店長は、ティッシュでそっと拭いてくれた。
そして自分が開けた軟骨のピアスをじっと見ると、百八十センチ以上ある長躯を折って、ばたりと長机に突っ伏した。
「ああ、やっちまったー、スタッフの身体に穴開けちまったー……」
またそれか、と笑ったけれど、軟骨ピアスの初体験は、相当な負担になってしまったらしい。職場の店長相手に申し訳ないけれど、それでもわたしは、この人に開けてもらいたかった。
これは、この人への恋心を消し去るための行為なのだから……。
「店長、しっかりしてください。ピアスもわたしも無事ですし、訴えませんから」
言いながら、彼の少し長いこげ茶色の髪に手を伸ばし、慌てて引っ込め、広い背中をぽんと叩く。予想より遥かに大きなダメージを受けているこの人の頭を、うっかり撫でてしまいそうだった。
それでもわたしに、その権利はない。むしろこの人の背中にすら、気軽に触れてはいけないのだ。だというのにわたしの身体は言うことを聞かない。すりすりと撫でたい衝動を必死に抑え込み、でも完全には制圧できす、たった一度だけ、背中を叩いた。