先生、私がヤリました。
だから私、決めたんです。

先生の最後の失くし物は私の手の中にあって、それってもう、奥さんの物でも先生の物でもなくなっちゃったってことですよね?

ハヅキくんの命は私の物だって気付いた途端、絶対に簡単に返してなんかあげないって決めました。

死ぬ気で探して。
もっと苦しんで。
先生は私とハヅキくんを天秤にかけて、ハヅキくんを選びました。

血を分けた息子だもん。
当然かもしれないけど、そんなの私は我慢出来ない。

絶対に一番がいい。
「私だけになれ」なんて我儘言ってないじゃないですか?

周りに大切な物がいくつあってもいいから、せめて一番にしてくれって言ってるだけなのに。

そうしてくれないのなら、宝物を奪われて当然だって思ったんです。

今?

今は…。あはは。
大人ってほんとズルイ。

そういうの、「良心の呵責」って言うんですか?
よくありますよね。

たてこもり犯に対して、お母さんとか家族が呼びかけるやつ。
感情に訴えかけてどうにかしようなんてズルイですよ。

私はね、傷つけられたんです。
私の純情を。

苦しんでくれるだけでいいんです。
喪失感に苛まれて、ハヅキくんの影を追って。

苦しんでくれるだけでいい。
それが私を手放した代償です。
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