先生、私がヤリました。
シェルフにはカレンダーもありました。
うちにあるやつよりも一回り大きくて、うちと同じお店のやつ。

ハヅキくんが私の部屋のカレンダーを見て「似てるの」って言った通りでした。

カレンダーの開いてるページは九月。

八月のページはもう無いから、十九日につけた印は確認出来ません。

奥さんはハヅキくんがずっと憶えていたように、八月十九日に、ハヅキくんのことを思い出したでしょうか。

「もう三ヶ月ですね。」

「三ヶ月?」

「ハヅキくんが消えて。」

「あ…えぇ…。そうね。」

「大変だったでしょう。世間に色々言われてるみたいですし。先生も明らかに痩せましたよね。でも良かったです。奥さんは元気そうで。」

にっこり笑った私に奥さんは一瞬も笑いませんでした。
心なしか口元が引き攣ってるようには見えましたけど、笑ってるんじゃなくて、怒ってたんだと思います。

「ドラマとかドキュメンタリー映像とかって、被害者の親御さん、すごくげっそりしてるじゃないですか。髪の毛とかもちょっと乱れてたりするっていうか。でも奥さんはすごく綺麗にされてますね。お肌の調子も良さそうですし。」

「何が言いたいの?」

「別に何も。何を言われると思って怯えてるんですか?」

「怯える?私が?」

「えぇ。言い当てられるのが怖いですか?」

「…何を。」

先生と奥さんのツーショット。
ハヅキくんを抱っこした先生と奥さんの家族写真。
どれを見ても奥さんの顔は、鉛筆で塗り潰したみたいにモヤがかかって見えました。

その場所はあんたの物じゃない。
早く返して。

私に返して。
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