無償の愛を送ります。
『私の居場所は何処だろう。』
何度そう思ったことか…。
私は所謂『御令嬢』というやつだ。学校ではみんな『私』ではなく、『世界企業の娘』、『深箱の御令嬢』そう見ている。だからみんな私に媚びを売る。私はそんな人達と友達になんてなりたくない。だって本当の友達になんてなれる訳ないじゃない。

遅ればせながら、私は浦瀬 雪那(うらせ せつな)と申します。
私の父は世界企業の社長です。表面上父は、良き社長、良き夫、良き父親。そう見られています。『表面上』では…。
ですが…蓋を開ければ、母と私には一切関心を持たず、愛人とその子供の事を可愛がっております。
褒められた事など1度もありません。
誰に対しても関心を持たず、信じたりしない私ですが、大切な人が1人だけおります。そう。お母様です。お母様は私を沢山の愛して、大切にしてくれます。お母様の為に何か恩返しがしたい。そう強く思います。
本当にお母様には感謝しています。とても大切な存在なのです。
某日。お母様は父親と言い争いをしていました。要約するとお母様は、
『何故私に対してそんなに無関心なのか。自分に対してだったら構わない。だけど娘は関係ない。』
またある時は、
『どうして愛人との子は可愛がるのに、私の事は可愛がってくれないのか。自分の子じゃない』と。
私は、お母様に
『お母様。もう別れてください。お母様が気の毒でなりません。』
そう懇願した。しかし、お母様は、
『ごめんね。あともう少しなの。』
『今は駄目なの。』
と言うのだ。お母様は何を考えているのだろうか。

…そんな私ですが、私にはある事に燃えています。それは、パーティーに呼ばれて1度着たドレス、宝石のアクセサリーに、パンプスをなるべく高く買い取ってくれる店で買い取ってもらうこと。
そして、唯一感謝してることはお小遣いがとんでもなく高額な事。父親曰く、『世間体を気にし、常に良い物を持ち歩き、人から見下げられる事のないように』だそうだ。…はっきり言うと反吐が出る。
…まぁ。そのお金はしっかりと金庫に閉まってるけどね。
何故ここまでしてお金を貯めるかって?『ある目的』があるから。だから遣わずに貯めてる。買いたい雑誌や、可愛い文房具だって買わない。少しでも貯めたいし、これらの物は後に不要になるからだ。

さてと。そうこうしてるうちに、決行日が来た。ここで父親と大喧嘩をして家から出なければ…。そうでもしないと自由に出歩けないのよね。庭に出るにしても使用人の方がきてしまうから。
部屋を出て廊下を出る。父親が目の前に居る。しかも愛人と一緒だ。私は頭も下げずに無視して歩く。すると、
「…。父親に対して挨拶もしないとはどういうつもりだ。」
相変わらず冷たい目で私を見る。
「これはこれはお父様。相変わらず『愛人様』とご一緒で。お母様もよく耐えてるわよねぇ…。お母様のご両親と、あなたのご両親に縛られてるとはいえねぇ…。」
嫌味ったらしく、鼻で笑うかのように言う。
すると父親は怒りを露わにし、打とうとした。だから思いっきり力を込めて父親の手首を掴んでやった。かなりわたしは握力あるから痛いと思う。思った通り顔を顰めている。私は軽蔑した目をしながら、
「打とうとしたって意味ありませんよ。あなたのやる事は大体予想できますから。何とかと一つ覚え…。とでも言いましょうか?」
口元だけクスリと微笑みながら言う。
父親は、それはそれは顔を真っ赤にしながら言う。「貴様という奴は!もう勘弁ならん!」
続けて愛人も「雪那さん!お父様に向かってなんて事を!」
白々しい。散々私を嘲ってるくせに。お母様に太刀打ちできないから、私を標的にするのだ。無視してるけど。
私は空いている方の手で、めいいっぱいの力を込め、愛人に平手打ちをした。そのせいで倒れた愛人に対し、
「愛人の分際で穢らわしい。散々私を嘲ってるくせに、男の前では猫かぶって白々しいのよ。…その汚らしい口で私の名を呼ぶな。」淡々と、そして最後の方は殺気混じりの口調で言う。本当にそうなんだもん。
父親は、「出ていけ!!お前なんか娘でもなんでもない!!」
あらら。屋敷中響いてるんじゃない?上手くいったからいいけど…。お母様が留守にしていて良かった。心配をかけてしまうから。…なんて心の中で思いながら。
「分かりました。そうさせて頂きます。」そう言って、部屋で予め用意しておいた荷物を持つ。正直重い…。だけど全部必要な物だ。

…誰も着いてきて居ないことを確認すると、私は今回重要な『鍵』となる首飾りを取り出す。
これは、お母様側の家宝の1つ。満月の光を当てながら、何年何月何日。何時何分。何処そこかを言うとその時代に行けるのだ。
5日間はその時代に行ける。
私は、お母様が18歳の○月○日に行きたいのだ。
実を言うと。お母様には愛している人が居る。だけど、その男性と一緒になれず『あの』父親と一緒にされたのだ。最初はまだあの父親も優しかったが、今の愛人と出会ってからというものはあの有様だ。『離婚すればいいのに!』そう思った。何度も思った。実際そう言った。しかしお母様は、やはり首を横に降るばかり。
…ある日の事、私は知ってしまった。お母様側の祖父は、私を囮にして離婚させないようにしている。『女遊びの激しいと名高い御曹司と結婚させる。』そう脅して。…そう日記に書いてあったのを偶然見てしまった。
だから私はその日から決めた。お金を貯め、その時代のお母様に会い、駆け落ちしてもらおうと。
例え…過去を代えた事により、私が消えたとしても。お母様へ恩返しがしたいのだ。私は、あの父親と血が繋がっていることが嫌で堪らない。それどころか穢らわしく感じる。
…考え事はもう終わりだ。過去へ行こう。目を閉じその日をそっと言う。


……。成功しただろうか。目をそっと開く。
見慣れない場所…どうやら成功したようだ。この時間頃にお母様が来るはずだ。来た。お母様だ。だけどこの日は使用人に見つかり、好きな人には会えない筈だ。私はそっとその場を離れ、お母様の肩を叩く。驚き振り向くお母様に私は、
「どうかお静かに。尾行されています。こちらへ隠れてください。」
有無を言わさず私達は物陰へ隠れる。直ぐに使用人が来た。反対方向へ向かう。様子を見て大丈夫だと判断し、
「もう大丈夫そうですよ。話しても大丈夫です。」そう言った。すると
「ありがとうございます。助かりました。わたしは…」
そう言いかけたお母様は驚いた表情をする。何故だろう口を開いたお母様は、
「わ、わたしにそっくり…。」
…あ。そっか。私は声も顔も若い頃のお母様と瓜二つだからか。成程…。私は優しく微笑み、
「存じてますよ。時田 由希子(ときた ゆきこ)さん。そうでしょう?私は未来から来たあなたなの。」
…あ。お母様。どうかお許しください。少し嘘をついてしまいました。するとお母様は、
「もしかして…我が家宝を使いましたか?」そう言った。私は頷く。納得するお母様。こんな事している場合じゃない!そう思い急ぎ、
「私の服と、あなたの服。今すぐに交換してください!急いで!それで今から来る『あの人』と、『絶対に』見つからない場所へ逃げて!出来れば、九州当たりまで!そこなら、我が時田家と仲の悪い親戚が居るから、恐らく追ってこないと思うの!さぁ早く!」
そう言い急ぎ服を交換する。うん。背丈もほぼ一緒だ。そして私は、今のお母様の髪型の鬘を被る。
すると、背の高い男性が走って来る。写真で見た男性だ。お母様の愛する人だろう。
私とお母様は一緒に出る。私はもう一度言う。驚いている男性を無視して言う。
「あなたはこの『重い』バッグ2つ持って!由希子さん!あなたはこっちのバッグを持って!これから必要になりそうな物を入れておいたから!それから、先程話した事を忘れないようにメモしておいたから渡しますね。無くさないでね!今なら新幹線に間に合うから急いで!振り向かず前へ進んで!何があっても2人は別れちゃ駄目ですよ!どんなに辛くても乗り越えて!!」
そう…。後の事は私に任せて。お母様。
2人が離れて行った。そろそろ良いだろう。私は、あえて人目につくように立つ。そう。誰かを待つかのように。すると、
「由希子お嬢様!!こちらへおいででしたか!さあ帰りましょう。ご主人様がお待ちです!」私を引っ張ろうとする使用人に対し、なるべくお母様の声に似せて、
「何をするの!離して!私は帰りません!!」
大丈夫だろうか…。バレてないだろうか。冷や汗が流れそうだ。心臓がバクバクする。
使用人が口を開く。『お願い。バレないで』そう思っていると、
「お嬢様!!いい加減諦めてください!!さぁ帰りましょう!」
良かった。バレなかったようだ。一先ず、第一関門は突破だ。
使用人2人が、私が逃げないようにしながら、家へ向かう。
どうやら着いたようだ。御祖母様と御祖父様が玄関で待っている。
『今の私は浦瀬雪那ではない。時田由希子だ。』そう自分に改めて言う。ここが正念場だ。バレたらお終いだ。
そんな事を思っていると、いつの間にか祖父母の前へ来ていた。祖父は、
「由希子!お前と言う奴は!!諦めろと言っているのが分からないのか!!」
そう怒鳴った。今にでも打たれそうだ。すると祖母は、
「由希子。本当に心配したんですよ。もうあの人の事は忘れなさい。一時的な感情でしかないんですからね?良いですね?」
有無を言わせない物言いだ。祖父は言う。
「しばらくの間、お前は部屋で反省しなさい!!必要最低限部屋から一歩も出るんじゃない!見張りを立てるからな!」
凄い迫力だなぁ…。と何処か他人事の様に聞いていた。だけど、お母様はこんな態度はしない。気を引き締めなければ…。私は絶望的な表情をし、
『お父様…!そんな…!お願いです!どうか許してください!…お願いです…。』
泣きそうな声でそう言う。
しかし、そうもいかず、部屋で謹慎になった。

1日。2日。3日…。そして、5日目の朝が来た。この日の夜。私は消える…。そう。未来にも帰ることはない。私は抹消されるのだ。涙がとめどなく溢れてくる。これでお母様が幸せになれたら、私は幸せなのです。私を唯一愛し、大切に育ててくれたお母様…。沢山守ってくれたお母様。…これで恩返しできるなら本望です。願わくばお母様の幸せな生活を人目見たかった…。
そうこうしているうちに夕方だ。集中しなさい…。私は時田由希子。演じ切るのです。
…足音が聞こえてきた。部屋の前で止まる。
「由希子。出てきなさい。重要な話がある。」祖父だ。相変わらず厳しい物言いだ。
憔悴しきった顔をしながらドアを開ける。気にする様子も無く祖父は、
「何をしている。早く着替えないか。モタモタするんじゃない。ある方を待たせているのだから。」
私は『あぁ。父親が来たのか。あの人なら取り敢えず、それなりの格好をすれば良いだろう。』
と思いながらさっさと着替えを済ます。
あまりの速さに一瞬驚いた表情を見せる祖父だったが、先を進む祖父。応接間に着いた。扉を開く祖父。祖父が口を開く。
「明日、浦瀬家の御子息。浦瀬 和正(うらせ かずまさ)様と婚約式を挙げる。良いな。由希子。」
俯きながらそれを聞いた私は、プツリと何かが切れた。…そうよ。もう夜じゃない。そろそろ消える時間だわ。思う存分暴れてやろうじゃないの。
黙っている私に祖父は、「由希子返事をしないか。」と厳しく言う。
あの父親は、「時田様。急だったので驚かれているのでしょう。」等と話してる。まだ話してるけどさぁ…。
「ちょっと…。いい加減にしましょうよ?人を何だとお思いで?駒とでも思っているのでしょうか?…あー!耐えられない!!ずっと黙ってれば…ふざけるんじゃないわよ!このクソジジイ!!」
怒鳴るまでは良かった。しかし、思い切り祖父を平手打ちしてしまっていた。祖父は倒れて驚いた表情をしている。あの父親は青ざめている。
そんなの知らない。私は続ける。
「だいたい何なのよ?いつまでも人の事縛り付けてさぁ…。それでも親か!この冷血人間!!ひとでなし!!
…それと、浦瀬和正。あなたもあなたよ?私の許可も得ずに何勝手に婚約式挙げようとしてるのよ?ん?答えなさい。あなたなんかどうせ、この先愛人作るくせに。フフフ。あなた…女好きよねぇ?」
祖父に対してはドスの効いた声で怒鳴り、この浦瀬には冷たい笑みを浮かべながら淡々と。
…そういえば。私って『じゃじゃ馬娘』って言われた事あったなぁ。と思い出す。
閑話休題。みんなが唖然として動かない隙に外へ出る。そろそろ時間だ。涙を流し走りながら私は、『お母様、どうか幸せなになってください。何がなんでも。それがわたしの幸せです。そして、それができる限りの私からのお礼です。只々お母様の幸せを切に願います。』そう心の中で呟いた。
…どうやら時間だ。体中か光り出す。「さようなら。お母様…」涙一筋流し、私は『消えた』。




時は流れ、十数年。
「ねぇママ。どうして私の名前は『雪那』にしたの?」
ある女の子が母親に問う。母親は、
「この名前はね。ママとパパの命の恩人の名前なのよ。私達は雪那さんのお陰で結婚できたのよ。」
優しく微笑みながら母親は答える。
「ふーん…。そうなんだ!その雪那さんは今どこに居るの?」
興味津々に女の子が聞く。母親は、
「分からないの。あれから1度も会えないの。どんなに探しても…ね。」
一瞬寂しそうにそう答えるが、母親は続けてこう言う。
「その雪那さんはね。パパとママにバレないようにバッグの中に1億円も入れてたのよ?本当にビックリした。そのバッグ重かったのよからどうしてかと思ったら…。それでお手紙も入っててね。『必ず使ってくださいね!絶対ですよ!わたしの為だと思ってください。ずっと幸せに暮らせますように…。』って書いてあったの。お金も返したかったし、幸せになれたと知らせたかったんだけど、見つからなかったの。」
母親は寂しそうに言う。そして心の中で、『でも…『未来の私』なんて嘘ついたの直ぐに分かったのよ。手紙の最後に『雪那より。』そう書いてあったから。…あなたは誰だったの?』
そう思っていると、女の子が、
「ママ!それじゃあ、その女の人の為にも家族みんなで幸せになろうよ!」
満面の笑みを浮かべながらそう言う。驚いた表情を浮かべた後、母親は優しく微笑み
「そうだね…。ありがとう。雪那。そうだ。今日はあなたとパパの大好物を作るからね!」
満面の笑みを浮かべる母親に、女の子は、「やったー!」と、大喜びする。母親は、
「本当に雪那とパパはそっくりねぇ。笑った顔なんてそっくりよ。」
そう幸せそうに笑いながら言う。そしてその親子は手を繋ぎながら家路に就く。
幸せな家庭へ…。

[完]
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