とある悪役令嬢は婚約破棄後に必ず処刑される。けれど彼女の最期はいつも笑顔だった。
「あの悪女がついに処刑されるんだな! ざまぁみろだ!!」
「聖女様を殺そうとするなんて、とんでもない女だよ!」
「悪い奴は早く死んじゃえー!!」

 処刑台のある広場へ着いた僕は、その異様な光景に言葉を失った。
 今から一人の命が失われようとしているのに、この場にいる人間は、その瞬間を今か今かと待ちわびている。
 彼女は何の罪も犯していない。それなのに、みんな彼女が悪者だと信じて疑っていない。

 サルウェルが姿を現すと、今度は大歓声が広場に響き渡った。
 国民の前で慈しむ様に微笑む本物の悪党を、今すぐにでも殺したくなる気持ちを唇を噛みしめて必死に耐えた。

 暫くして、アメリア嬢が処刑台へと連れてこられると、人々から心無い罵声が浴びせられた。
 少しやつれて、髪もツヤを失い整えられていない状態で、女性用の囚人服を着せられている。
 変わり果てた彼女の姿を見て、ショックで息が詰まった。

 一体彼女は今、どんな思いでこの場所にいるのだろうか? 婚約者に裏切られ、罵声を浴びせられ、殺される事を……。

 出来る事なら今すぐ彼女を助け出したい。
 僕の力を使えば不可能ではない。
 だが……。

 こんな苦しみ、知らない方がいいに決まってる。こんな辛い記憶を持って生き続けるよりも……。次こそ必ず助け出す。だから今回は……耐えるんだ。

 拳を強く握りしめ、すぐにでも彼女の元に駆け付けたい気持ちを押し殺した。
 彼女は処刑台の真ん中で膝をつき、顔をあげてニッコリと微笑んだ。
 それが彼女の強がりの笑みだと、僕はすぐに分かった。

 やはり君は辛い時、笑うんだな。あの時と同じ様に……。

 姿は変わってもあの時と変わらないその笑顔に、僕の胸は熱くなった。

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