とある悪役令嬢は婚約破棄後に必ず処刑される。けれど彼女の最期はいつも笑顔だった。
 その時だった。
 前方にいた子供が、彼女の顔に石を投げつけ、それが当たった額からは血が流れだした。

 あのクソガキ!!何てことを!!

 少し驚いた表情で見開いた彼女の瞳からは、ポロポロと大粒の涙が溢れ出した。
 次の瞬間、彼女の顔が悲しみの表情へと一転した。

「お願い.......助けて.......もう、死にたくない……繰り返したくない……。 お願いだから、この人生を終わらせて.......」

 ………………なん……だって……?

 彼女の言葉。その意味を――
 僕は信じられなかった。信じたくなかった。
 嗚咽を繰り返し、泣き続ける彼女を見た人々は歓喜に沸いたが、僕の頭はただ混乱するだけだった

 まさか彼女も……時間を巻き戻っていた……?

 よく考えれば思い当たる節はあった。
 彼女とサルウェルは、聖女が現れるまでは本物の夫婦の様だと周りが羨むほど仲が良かった。
 だからこそ、僕も自分の初恋を諦めて、王太子の相手として相応しい女性と婚約した。

 それなのに、彼女がサルウェルに対する愛は全く無い様だと報告を受けた。それどころか、聖女と王太子が仲良くなる事を邪魔しないように立ち回っていた。
 そして、五回目と六回目の不可解な世界の崩壊……もしかしたらその時、彼女は自ら――。

 だとしたら……僕は一体、何回彼女を殺したんだ……?
 彼女を助けると息巻きながら、実際に彼女を苦しめ続けていたのは僕じゃないのか?
 それに僕はこの繰り返す時間を……彼女の死を利用して、自分の国の問題も解決しようとしていた。
 僕は結局あの時と同じ、自分の事しか考えていなかったんじゃないのか?

 その時、ザワついていた人々の声が途切れた。
 それが何を意味するか――気付くよりも先に

「アメリア!!!」

 とっさに彼女の名前を叫んでいた。
 
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