とある悪役令嬢は婚約破棄後に必ず処刑される。けれど彼女の最期はいつも笑顔だった。
「え……?」

 死んだはずの私は、見慣れた自分の部屋で目を覚ました。
 
 なんで?確かに私はさっき死んだはず……だって――

 ()()()()を思い出し、ゾクリと悪寒が走り、ヒュッと息が詰まった。
 冷や汗が頬をつたい、震えが止まらない。

 その時ノック音が聞こえ、ガチャリと扉が開いた。

「公女様、おはようございます。あら? なんだか顔色が悪い様ですけど、大丈夫ですか?」

 見慣れた侍女の顔を見て少し安心したのか、震えは止まっていた。

「あ……大丈夫よ。ちょっと嫌な夢を見ただけだから」
「そうですか。でも今日はきっと良い一日になりますよ。聖女様がついにこの国にやって来られるのですから!」

 今日、聖女が来るですって?

 この国では百年に一度、聖女召喚の義が行われる。
 一年前に召喚された聖女は、この国を守護する存在として、正式な国賓として王城へ迎え入れられた。
 そこで王太子と仲良くなり……まあ、それはもうどうでもいいわ。

 侍女の話によると、聖女はまだこの国には存在しておらず、今日が聖女召喚の儀が行われる日なのだという。

 つまり、一年前に戻っているという事? それともやっぱりあれは、ただの夢だったというの?

 その疑問が解決されないまま、聖女のお披露目会に出席した私は、聖女を見て愕然とした。
 ニッコリと微笑む女性は、あの夢で見た聖女そのものだった。

 もしかしたら、あの夢は未来を予知していたのかもしれない。

 そう思うと同時に、もう一度人生をやり直せるチャンスを頂いた事を、神に感謝した。

< 3 / 24 >

この作品をシェア

pagetop