とある悪役令嬢は婚約破棄後に必ず処刑される。けれど彼女の最期はいつも笑顔だった。
 十回目となる処刑台に立った私の目の前には、変わり映えのしない景色が広がっている。
 今か今かと、私に向けられた刃が振り下ろされるのを期待しながら待つ人々。
 見飽きてしまったその人達に向けて、私はいつもの様に微笑んだ。
 
 その時だった。
 誰かが投げた石が、私の額に直撃した。

「笑うな悪者め!! お前なんか死んじゃえばいいんだ!!」

 その言葉を私に向けて言い放った少年の姿は、まるで正義の味方を名乗るヒーローのように勇ましかった。
 その時、私の中で、何かがプツリと切れた気がした。
 じわりじわりと視界が歪みだす。

 ああ……駄目よ.......笑わないと……笑わないと……

 次の瞬間、私が貼り付けていた笑顔の仮面が、カランッと剥がれ落ちる音がした。
 私の瞳からは、堰を切ったように涙が溢れだした。

「お願い.......助けて――」

 涙を流し、掠れる声で必死に助けを求める私を見て、少年は不思議そうな顔をしていた。
 私は顔をゆがめ、嗚咽しながら涙を流した。
 それを見た人々は、これまでにない程の歓喜に沸いていた。
 
 私はこの世界から嫌われている。
 みんな、私が死ぬ事を望んでいる。
 きっとお父様からも、誰からも、私は愛される事はない。

 それならいっそのこと、本当に死ぬ事が出来たら良かったのに。
 なんで私を殺してくれないの?

 死神の鎌はもうすぐ振り下ろされる。
 そしてまたすぐに地獄の日々が始まるだろう。

 もう嫌……繰り返したくない。死にたい。もう死にたくない。どうか、今度こそ……

 目覚める事がありませんように――

「アメリア!!!」

 ……え?

 長く聞いていなかった気がする私の名前を、誰かが叫んだ声がした。
 その姿を確認すること無く、私は今回の人生の幕を閉じた。



 今、私の名前を呼んだのは、誰だったの?――


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