とある悪役令嬢は婚約破棄後に必ず処刑される。けれど彼女の最期はいつも笑顔だった。
 いてもたっても居られなくなった僕は、ある男性の元へと向かっていた。
 以前、戦地に取り残されていた彼を助けた僕は、この国で住める場所を与えた。

「この御恩は一生忘れません。貴方がもしも本当に困った時には是非、私を尋ねてください。どんな不可能な事でも、可能にして差し上げましょう」

 彼と別れの挨拶をかわした時、そんな事を言っていた。
 それならば、死んだ人を甦らせる事も可能なのか?
 そんな夢物語みたいな事を思ってしまうくらい、僕は彼女が死んだ事実を受け入れられなかった。




「残念ですが、既に亡くなってしまった命を蘇らせる事は不可能です。」

 彼の元を訪ね、事情を説明した僕は、その言葉を聞いてガックリと肩を落とした。

 当たり前だ。別に期待なんてしていなかった。

「ただ、彼女を生かす方法が一つだけあります」
「!? 本当か!!?」
「はい。ただ、この方法には少し問題があります」
「いいから続けてくれ」

 男は少し難色を示しながら、詳細を話し始めた。

「今から貴方にある魔法をかけます。その瞬間、貴方は今の記憶を保持したまま、過去の貴方として目を覚まします。どれだけ時間を遡るかは分かりません。ですが、彼女の死がまだ確定していない時なのは確かです」

「過去に戻って、彼女を助ける……ということか? そんな事が出来るのか?」

「はい。ですが、この魔法は呪いの様なものです。もし彼女が死んでしまった場合、再び同じ時間まで巻き戻ります。つまり、彼女が死ぬ運命を覆さない限り、永遠に同じ時を繰り返す事になります。その覚悟が貴方におありですか? 彼女と運命を共にする覚悟が」

「ある」

 迷いはなかった。彼女が生きられる可能性があるのなら、どんな事でもしてみせる。

「分かりました。では、貴方への御恩を、今ここでお返し致します。最後に一つだけ。人が死ぬという運命を覆すには、それに見合う代償と覚悟が必要です。不要な物は全て斬り捨てて下さい」
「ああ。肝に銘じておくよ」
「ご健闘をお祈りします」

 男が魔法を僕にかけた瞬間、僕の目の前の光景にヒビが入りだし、今いる世界が崩れ落ちていくと同時に僕の意識も途切れた。

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